世界一わかりやすい企画書の書き方⑤ 〜 正しい言葉を使う 〜

今回の記事では「正しい言葉を使う」ということをお伝えしたい。
企画書を書く上で一番大切なことの一つだが、必ずしも企画書に限ったことではなく、ビジネスに関わること全般に共通する内容になっている。IT系に限定すれば、仕様書や設計書を書く時の注意点になる。

「正しい」とはどんなことか? 大きくは2点ある。
1つは、「5W1Hに従う」ということ。
もう一つは「程度・時間・状態を表す言葉を客観的に表現する」ということである。

5W1Hに従う

そんな新人レベルのこと、言われなくても分かっていると思うかもしれないが、現実的にそれができている現場は少ない。
筆者は、大企業や独立行政法人など大きな組織のプロジェクトにもいくつも関わってきているが、企画という非定型的な業務の性質上、優秀な人材でも言葉の使い方に慣れていない場合が多い。それは、定型的な業務では省略されても通じる言葉も非定形的な業務では正確に使う必要があるからで、言葉の使い方が違うからだ。

特に多いのは主語や対象が抜けているか、曖昧な場合だ。例えば、

このシステム導入は、業務の効率化のために実施する

という文章があるとする。

関係者間の日常の会話では、システム導入の背景や実際に困っている状況を頭の中に思い描いているので通じるが、文章そのものを評価すれば、そもそも「誰が」「誰の」業務効率化のためにそれをやろうとしているのか、全く見えてこない。

企画書というのは自分一人のために書くわけではない。
有限な資金・時間や人的リソースを割り当ててもらうために上位層が読むべき文章である。また、その企画書をもとに作られる要件定義書や設計書は、開発会社などの外部のベンダーなど依頼するための文書の元にもなる。同じ会社でもいずれ監査が目を通すかもしれないし、同じ部署でも数年後に見返す事もあるかもしれない。
フォーマルな文章というのは、いつ誰が見ても複数の解釈が成立しないように厳格である必要がある。では、文章を直してみて、

このシステム導入は、電話サポートグループの集計作業の効率化のために開発システム部が実施する

という表現はどうだろうか?

一見5W1Hを踏襲して良いように見えるが、まだ曖昧な場合がある。
効率化しようとしているのは、「電話サポートグループ」の誰の業務なのだろうか?
電話サポートグループ全員の業務が効率化されるのか、あるいは、集計業務を担当しているマネージャの業務が効率化されるのか?

結局、「なぜなぜ分析」の話に戻ってしまうことになるが、まずは5W1Hを踏まえた正しい日本語で文章を表現することにより、その企画で実現しようとしている目的や背景、要件や期待効果のイメージに輪郭をピタッとフォーカスさせる必要がある。

程度・時間・状態を表す言葉を客観的に表現する

文章の中に程度・時間・状態を表す言葉がある場合、できる限り客観的に表現することが重要になる。

 保険コーディネータがカスタマーのアンケートを一緒に見ながら接客を行う

という文章があったとする。それまではカスタマーに紙に回答してもらった内容を、接客後、保険コーディネータが一々システムに打ち込みをしなければいけないのが手間だった。よって直接電子システムにカスタマーに入力してもらう、というのがこの要件の背景である。
しかし、この「一緒に」という言葉は、実は非常に曖昧な表現である。アンケートの回答内容を

  • 「別画面を一緒に見ながら」なのか、
  • 「同じ画面を一緒に見ながら」なのか、
  • 「紙にプリントアウトしたものを一緒に見ながら」なのか、

わからない。
カスタマー自身が入力することにより、保険コーディネータの入力の手間を省くという意味ではどれでも良いが、現場の実際の接客の方法に沿った企画とするためには、できる限り具体的で客観的な表現がふさわしい。

もう一つ例を挙げよう。

以前と同じように、画像サイズを自動的にリサイズしてアイキャッチ画像として一覧表示する

という文章があったとする。ここでいう「以前と同じ」という言葉も受け取る人によって解釈が異なる場合がある。特に複数回の改修が行われている場合は、どの「以前」なのかがさっぱりわからない。この表現を使うなとは言わないが

以前と同じように、画像サイズを150px×200px(縦×横)に自動的にリサイズしてアイキャッチ画像として一覧表示する

とした方が望ましい。
このほかにも、「普通に」「正しく」「いつものように」などの程度・時間・状態を表す言葉も、できる限り複数の解釈が成立しないように厳格に文章を作り上げていく必要がある。

自己レビューをする

以前、企画のレビュー会などに参加した時に、業務の内容をほとんど把握していないにも関わらず、バシバシツッコミを入れていたら、現場知らないのに何故にそんな深いところまでついてくるんですか?と不思議がられたことがある。

実際、業務内容はほとんど知らないので、明後日な指摘をしてしまう事もなくはない。
ただ、個人的には企画レビューをしているというより、国語の添削に近い感覚を持っているので、難しいという感覚はない。というのも、企画内容の文章を読むと主語が曖昧だったり、状態の表現が曖昧だったりする場合が多いので、それを一つ一つ時ほぐして行っているだけなのだ。

  • 誰がそれをやるのか、誰にとっての効果なのか。
  • 状態なら客観的かつ具体的にそれが表現されているのか?

逆にいうと、自分で書いた文章でも「主語」や「形容詞・副詞・形容動詞」を機械的にチェックしていくと、企画自体の精度がグッとましていくことになる。そして、表現できない部分があれば、そこが検討が不足している点であり、掘り下げるべきところになっていく。

いかがだろうか?
企画書に限らず、対外的に出す文章を書くときは一度試していただければと思う。