はじめての確定申告⑥ 〜水を差し出す人になる〜

「はじめての確定申告」シリーズは今回6回目で、大体概念的な事は一通り書けたと思う。
テクニカルな内容であればこのブログよりももっと詳しい情報が各種サイトに掲載されているが、ここで述べたいのは、確定申告に対する構造的な理解であり、テクニカルな内容を自分の頭で読み解くことができるようになることだ。
なぜ、そんな記事を書こうと思ったのかというと、これからの日本で生き残っていく為には、自分でお金を稼いで自分で税金を払う「お金に対するリテラシー」が必要になるからだ。こうしたリテラシーは経済的な自由を獲得するための土台になる。
何を大袈裟な・・・と思うかもしれない。だが、政治的でもなく、社会問題でもなく、哲学的でもないが、案外そんな事が人が自由になる為の手がかりだった、なんてことがあってもいいのではないだろうか?

思い込み

効率面で言えば、本来は個人が受け持つべき経理処理を企業が代行して、各個人は専門化した能力を発揮する方が社会としては良い。税金を取る側も一人一人の税金が正しいかを確認するよりも、企業相手にどかっと税を徴収できた方が都合がいい。
しかし、こうした仕組みが行き過ぎると、個人が生きる上での選択肢が組織に所属すること以外になくなってくる。実際、今いる組織をやめたら次の転職先を探す人がほとんどではないだろうか?

だが、これは思い込みである。
今の日本社会はサラリーマンやパートであることを前提になり過ぎている。何故かというと我々は税金を含めたお金の扱い方を教えられてきていないからだ。文系・理系に分かれて自分の専門分野を磨く事は教えられても、確定申告の仕方は学校では教えてくれない。大体、自分で稼げる世界がある事すら気づかない。
組織に所属することは安全に思えるが、市場から切り離されて労働を安く買い叩かれる原因にもなる。移動の自由が極端に制限されていることと同じで、他に選択肢がないとどうしても使用者側の無理がきくことになってしまう。

経済の本質は価値の交換である。
本来は組織に所属している事と交換価値の間に因果関係はない。だから、個人だろうが組織だろうが、提供できる価値があるのであれば積極的に価値交換していいハズである。

砂漠で水がなければ、水を提供してくれるなら人が誰だろうと関係ない。
だが、大抵の場合、水を差し出す個人にはなろうとしない。

水を差し出す人になる

これはまだ、自分が中小企業診断士になる前の話だが、ある40歳過ぎの女性が、職場の人間関係が上手くいかずに精神を病むまでになっていた。
当時は、一回職場を辞めて派遣社員でも稼げるんじゃないの?と助言したのだが、一流のキャリアを歩んでいた彼女にはプライドが許さなかったのだと思う。今であれば、起業や独立という選択肢を勧めることもできただろうが、私自身にもまだそこまで世界が見えていない時期でもあった。結局、彼女は自死を選んでしまった。

「自由」という言葉は、とても理念的な概念だがもっと具体的なものではないかと思う。
少なくとも「経済的な自由」は現実的だ。
自分で持続的に稼ぐ手段を持っていれば、命を削るほど環境に左右される事もない。自分で自分の在り方を選べることが自由の本質である。

汲々につめられて精神まで破壊されるブラック企業のサラリーマン。
誰かを貶める事で生活の苦しさ紛らわすパートのおばちゃん。
恩着せがましい夫や暴力から逃げられない専業主婦。
過去のトラウマで引きこもるしかない引きこもり。
そういった不自由な人間に、あなたがならなければならない理由は一つもない。

別に、いきなり仕事を辞めて、独立開業するのがいいと言っているつもりはない。
今ある仕事をしながら、副業を始めるだけでもだいぶ違う。
デザイナーが個人で仕事受けても、学校教師がYouTubeで講座開くのも、趣味や得意分野の記事を書いてアフィリエイトで稼ぐのも、実は色々な稼ぎ方があるはずだ。
副業がうまくいくと、時に自分が今まで知らなかったような金額でお金が入ることがある。給与以外のお金というのは、慣れないと何か悪いことをしているような気になるものだ。だが、価値が存在し、その価値を金銭と交換しても良いという人がいるのならば、それは砂漠で水を欲している人にあなたが水を与えている事と変わりはない。正当な対価である。
もし、あなたが水を持っているのに、その水を差し出さない方が実はひどいことをしているという考え方だってあるのではないだろうか?

確定申告をできるようになる事

確定申告をできるようになる事という事の意味は2つある。一つは

社会の成員として正当性を獲得すること

である。
正当に商売を営み、正しい処理をして税金を払う。税金を払うということは、社会に正しく参加していることである。犯罪はダメだが、ここさえ押さえておけばどんな仕事をしていても他人がとやかく言える事ではない。そして、案外自分が主体的に選んでお金を稼げるようになると、他の人から何を言われようと、知った事ではないのである。もう一つは

お金に対するコントロールを獲得すること

である。サラリーマンは税金を取られた後のお金を使うことしかできないが、事業者は税金を取られる前のお金をどう使うことができる。そして、どのように稼ぎ、どのように経費を使うかその流れを知る事で、一つ一つの自分の選択が主体的になる。

人類が貨幣を発明してから、人はお金無しには生きられない。それほど重要なものなのに、お金に対する教育をしてくれる学校はほとんどない。正直、フィナンシャルリテラシーを高める科目を義務教育にしても良いくらいである。

人は価値を作り出し対価をもらうということに、もっと自由であっていい。
これから何か新しいことに踏み出していきたいと思っている人間がいれば参考になれば嬉しい。