はじめての確定申告② 〜所得の種類と課税方式〜

前回の記事では、「所得とは収入から経費を引いた利益のことであり、所得税とは所得に決められた税率をかけて確定する」「確定申告とは、所得税の計算過程がそのまま書式に落とし込まれている」という話をした。この構造が分かれば、あとは収入や所得の種類を適切に選んで金額を埋めていけば確定申告ができるようになる。

…筈なのだが、現実に確定申告を始めて見ると収入や所得の種類を適切に選ぶのがまず難しい。

「一時的にしか入ってこないお金だけど、雑所得なの?一時所得なの?」
「不動産って事業としてやったら、事業所得なの?」
「不動産売買で利益出たけど、これって譲渡所得なの?」
「退職金って入力欄ないから、給与所得でいいのかな?」
「山林所得の欄が確定申告書にないぞ…」
「総合課税?分離課税?なんのこっちゃ」

など、結局何がどの所得になるのか全く選べないという状態になってしまう。
しょうがないので、確定申告の手引きやネットを調べるが、更に泥沼にハマっていく。
まず用語の一つ一つが分からないし、分かっても「あれ、配当所得って総合課税・分離課税の2種類あるの?これどっちよ!」と更に混乱に拍車をかけてしまう。

しまいには「これは嫌がらせなのか?」「他の人はこれ区別ついているのか?分からないのは俺だけ?俺が馬鹿なのか?」「いや、きっとこれは民衆から税金を多く搾取するための政府の陰謀に違いない」…などと豊かに想像力を巡らす結果になる。(私だけかもしれないが。)

こうした項目や区分けが複雑なのは別に悪意があってのことではなく、現実に即して公平に税を負担してもらうための工夫が蓄積した結果である。ただし、1個1個の説明は正しくても、背景や土台になっている考え方が見えないために、言語明瞭意味不明な状況に陥ってしまう。

所得の種類

所得は以下の10個に分けられる。

  • 事業所得
  • 利子所得
  • 配当所得
  • 不動産所得
  • 給与所得
  • 山林所得
  • 一時所得
  • 退職所得
  • 譲渡所得
  • 雑所得

 

何か、お金が入ってくることがあったら、必ずこのどれかには分けることができる。

ところで確定申告表B(左図:「令和元年分所得税及び復興所得税の確定申告の手引き」より抜粋)の項目を見ると、必ずしもこの10個の所得が掲載されているわけではないのが分かる。確定申告表Bはフルバージョンなので、欄がないとおかしい。何故なのだろうか?

実は、確定申告表B第一表に載っているのは「総合課税方式」の所得に限定され、「分離課税方式」の所得は、概ね第三表に分けて申告することになっているのである。

総合課税方式と分離課税方式

前回の記事では、所得税の計算過程が第一表にまとめられているという話をした。色々な所得を合算して確定した金額に所得税率をかけて所得税額が出てくるのだが、これがまさに「総合課税方式」と呼ばれる課税方式だ。「総合」というのは、「丸っと合算して」という意味だ。

だが、所得の中には「丸っと合算して」しまうのに不適切な種類の所得が存在する。
例えば、勤続40年のお父さんの退職金が5,000万円出たとしよう。所得税は累進課税なので金額が大きいほど税金も高くなる計算になる。他に所得がないものと仮定しても、令和元年の所得税計算で

5,000万円 × 税率45% – 479.6万円 = 1,770.4万円

の税金を払わないといけない事になる。退職金は老後を安心して暮らすために積み上げられた資産の一部でもあるため、この時だけ高額所得者として課税するのは本来の退職金の目的から外れてしまう。よって、丸っと合算して累進課税で税金を納めるには適さない所得を個別に分離して課税することにしたのが、「分離課税方式」である。

もう一つ例を挙げよう。
銀行に預けておいた預金から生まれる利子などは、すでに源泉から所得税を徴収済みの所得も存在する。この場合、すでに税金が引かれるのに丸っと合算してしまうと二重に税金をかけることになる。よって「(源泉)分離課税」として、申告自体も除外していいことになっている。

「あれ?でも確定申告表B第一表に『利子所得』の欄があるけどこれは何?と思ったあなた。鋭いです。

確定申告の手引きの中で、利子所得の概要には以下のような説明書きがある。

国外で支払われる預金等の利子など国内で源泉徴収されないものや、同族会社が発行した社債の利子でその同族会社の判定の基礎となった株主等が支払を受けるものなどによる所得

難解な文章だが、日本の金融機関に預けているような場合は、銀行が源泉徴収した後の金額を振り込むので確定申告は不要だが、国外や銀行以外の貸し借りで源泉徴収してない場合もある。要約すると「源泉徴収されていない場合はちゃんと利子所得を申告してね」ということで、欄を用意しているのである。

以上を踏まえ、ケースにより総合課税になる場合もあるが、以下の所得は概ね分離課税として申告する。

  • 配当所得
  • 退職所得
  • 山林所得
  • 譲渡所得(土地建物・株券)
  • 利子所得

まとめ

本日のまとめ。

  • 丸っと合算して、累進課税の税率をかけるのが総合課税方式
  • 何らかの事情により、(総合課税方式とは分けて)個別に税率をかけるのが分離課税方式
  • 所得によっては、総合課税になったり、分離課税になったりするものもある

である。

今回は、各所得の定義や説明は割愛した。
それらは、ネットで探せば詳しく掲載されているサイトは山ほどあるし、確定申告の手引きにも掲載されている。それでも相変わらずわかりづらい文章ではあるが、背景や考え方を知っていればある程度自分で読み解いて判断ができる。また、税務署や青色申告会に質問するときにも、分からないことが分からなくて質問もできないような状態にはならないはずだ。

ここら辺は、私が確定申告を行うようになって泥沼にハマったところでもある。
考え方を知ることで、自分で読み解ける力を身につけられるようになっていただければ幸甚である。