世界一わかりやすい企画書の書き方④ 〜 課題(「負」)を分析する 〜

前回は、要件の詳細化の仕方に関してお伝えした。
要件とは「やりたきこと」であり、今後目指す「あるべき姿(AsIs)」である。しかし「あるべき姿(AsIs)」がなんであるかを正しく描くためには、そもそも現状何に困っているのか課題(「負」)を掘り下げていく必要がある。

もちろん企画というのは、課題(「負」)の解決を目指すものばかりではない。
単にイベントをやりたいとか、映画を撮りたいとか、商業施設を立ち上げたいとか、一からサラに立ち上げられるものもあるだろう。しかし、ビジネスは何らかの継続性のもとに行われており、更に高い価値を提供するという意味おいて、課題(「負」)が全く存在しない企画は存在しない。また、企画のベースとなる状況はその時々で異なるため、課題(「負」)という言葉を使わないまでも現状の分析が通常は必要になる。

負が本当に負なのかを疑問を持つ

課題(「負」)を掘り下げる上でまず、最初にやるべきことは、課題(「負」)が本当に課題(「負」)なのかに疑問を持つことである。仕事をしていると、何となく困ることとか、何となく無駄なことがあったりする。
だが、確かに課題(「負」)に感じられることでも、主観的にそう思っているだけで実はそこまで課題(「負」)でないこともある。

例えば紙の書類で決裁を取る業務があるとする。今時、紙で決裁やっているのは遅れている!と思うかもしれないが、週1回くらいしか処理しないような書類まで全て電子化する必要があるのか言うと必ずしもそうはならない。まずは、定量的にどこでどれだけ発生し、それを解消することでどれだけの効果が得られるのか、分析の精度を高める。

因果関係を正しく分析する

課題(「負」)とそれに対してやろうとしていることの因果関係が正しいのかも注意深く分析する。

例えば「義両親と同居するために自宅をリフォームする」と言うと、一般的には何となく通じるが、因果関係としては正確ではない。
家が豪邸で広ければわざわざリフォームは必要ないし、広くてもお互いのプライバシーに配慮したいのであればやはりリフォームが必要になってくる。また、義両親が高齢ならバリアフリーにしなければいけないが、義両親の年齢は文章からだけでは判断はつかない。当事者にとっては、義両親は高齢でしかも義母の足が悪い状態は当然の事実として織り込まれているが、他人から見ると「義両親と同居するために自宅をリフォームする」のは論理が飛躍していることになる。

なぜ、因果関係を正しく表現する必要があるのだろうか?
それは、今後具体的な打ち手を考えるときに正しい原因を見つけ、それに対して正しくアプローチしていく必要があるからだ。

例えば「書類を電子申請化することで業務効率化する」と言う企画はよくある話である。
だが実は、書類の電子申請と業務効率化の間に因果関係はない。例えば経費申請の承認に時間がかかるような問題があったとして、その原因が経費締め日に漏れたイレギュラーな申請が多い事だとしたら、電子申請化したところで結果は変わらない。ここで解決しなければいけないのは、イレギュラー申請をどう減らすかであり、そのためにしなければならないのは電子申請化ではなく、業務フローの見直しや規律の徹底である。
因果関係の分析が甘いと、「電子申請化」すると言う手段が目的に入れ替わってしまい、せっかく高いお金や時間をかけてシステムを導入したのに、ほとんど効果が上がらなかったと言う結果に陥ることになる。

目的と手段を区別するのは難しい

ロジカルシンキングの講習などに出ると「目的と手段を区別する」と言う話は良くされるかもしれない。
実際上記のような例を説明されると「そうだよね」とその時は納得して帰宅するが、現場に戻っていざ自分の業務で応用しようとしてみると途端に自信を持って答えを出せなくなる場合が多い。例えば、

「自宅をバリアフリーにリフォームする」は目的だろうか?手段だろうか?

「手段」と即答できた方はセンスがいいが、答えは手段でもあり、目的でもある。

何故か?
あるレベルでの目的が一つ上のレベルから見ると手段となっているからである。

「系統図法」をご存知だろうか?
手段と目的を掘り下げ(=掘り上げ?)ていく時に使用する論理的技法である。
「自宅をバリアフリーにリフォームする」は、「移動時に転倒しないようにする」と言う上位レベルから見れば手段であるが、「段差をなくし、廊下に手すりをつける」と言う下位レベルから見ると目的なのである。

図は単純化するため因果関係に一つのルートしか用意していないが、目的を達成する手段は複数あるので、通常は下位にブレークダウンするに従って複数ルートに枝分かれしていく。

企画業務に近いところで仕事をしていると、手段なのか目的なのかと言う議論をよく目にするが、それぞれ語る階層がズレていて噛み合っていない事が多い。
こうした因果のツリーを描くのは、どれだけ何故何故分析したのか、最終的に真の課題(負)は何か?と言うことをどれだけ掘り下げられたのかと言うことに尽きる。これには訓練も必要だし、いろいろな人、特に上位層の人材から繰り返しレビューを受けて勘所を身につける必要がある。(元々勘のよい人もいるけれども・・・。)

いかがだろうか?
企画の段階では、具体的な解決の記載までは必要ないと前回書いたが、やがて取りうる解決策を正しいものにするためにも、何故困っているのか、何が課題(負)なのかを何故何故分析でしっかり掘り下げていこう。

本日はここまで。