世界一わかりやすい企画書の書き方③ 〜 企画を掘り下げる 〜

前回は、企画書を書く上での記載項目・・・フォーマットについて触れた。
今回は、企画の掘り下げ方を検証する。具体的には、前回割愛していた「現状(AsIs)とあるべき姿(ToBe)」と「企画要件」について見ていこう。

AsIs – ToBe分析

AsIs – ToBe分析は、企画を立てる上での最も基本的な考え方(コンセプト)であり、GAP分析と呼ぶ場合もある。

AsIsとは「現状」のことで、ToBeとは「あるべき姿」のことである。
なぜ、企画においてこれが最も重要になるのかというと、AsIsが企画におけるスタート地点であり、ToBeがゴールとなるからである。

今回のリフォームの事例で言うと、「現状(AsIs)」は「2階は居住空間。1階は居間。和室は、来客が泊まれる」こと、また、「T奥が9時にパートに出かけ、16時半までに帰って食事の用意をする」と言うことになる。
一方、「あるべき姿(ToBe)」とは何か?
今後義両親と同居することになるのだが、単に同居できればいいと言うわけではない。足の悪いお義母さんが安全に暮らせると言うことが大事で、かつ、経済的な裏打ちもなければならない。よって、「あるべき姿(ToBe)」は「1階和室をT家義両親の生活空間とし、移動時に転倒などリスクを軽減し、安全かつ安心して生活できること」そして、「義両親同居で経済的な不利益が発生しない事」になる。

周りくどいように思えるかもしれないが、スタートとゴールをしっかりと定義しなければ、正しいルートは開拓できない。
特に「現状(AsIs)」に関して、企画する当人に取っては当然すぎて言葉にするのも案外難しい。
だが、企画とは何らかの課題・問題の解決を求めることであり、現状、何故それが負(ふ)になっているのかを他人に正確に伝えないことには、有限な組織のリソース(人・モノ・金・情報)を動員するには説得力が乏しい。企画とはある状態からある状態へ移行することだと考えると移行前と移行後の2つの状態を正確に定義することが必要となる。

企画要件

企画要件では、「やりたきこと」を詳細化していく。単に「企画の詳細」とか、「企画内容」とか呼び方は色々あるが、要は具体的に何をしなければならないのか、あるいは、したいのかを掘り下げていく。
リフォームの回答例では、

<MUST事項>

  • 高齢者が1階の各部屋を安全かつ安心して移動&居住できること
  • 玄関から和室までの導線上、車いすも移動できること
  • 1階の浴室・洗面所・トイレなども高齢者が安全で利用のしやすい状態となっていること
  • 2階へも安全に上り下りできる手段が講じられていること(2階は車いすの移動は考えない)

<WANTS事項>

  • 高齢者居室が夜寝ても冷えないようにする
  • 高齢者が2階に上がる事があった場合、トイレと8畳寝室は最低限安全かつ安心して移動できる

とした。ここで注意しなければいけないのは、「要件(=やりたきこと)(=目的)」の詳細化であって、「手段」の詳細化ではないと言う点だ。悪い書き方の一例は、

  • 1階の段差を無くすこと
  • お風呂場を高齢者用にリフォームすること

などと言う書き方だ。
これだけ見ると先ほどの回答例と大差ないように見えるかもしれないが、上記の書き方はあくまで「手段」でしかない。「段差をなくす」「お風呂場を高齢者用にする」と言うのは、「どのように(How)」やるかであって、「何故(Why)」やるのか?「何(What)を」やりたいのかではない。あくまで求められるのは、「義両親との生活における安全・安心」であり、「段差」をなくしたり、「高齢者用にリフォーム」することが必ずしも「安全・安心」に繋がるとは限らない。
変な話、段差をなくしただけでは安全じゃないかもしれないし、高齢者用にお風呂をリフォームしたところで、足の悪い人向けにはもう少し別の工夫が必要かもしれない。

企画段階で手段(How)を記載してしまうと、ぬる〜く正しいことを書いているように錯覚しがちで、こうした企画書は本当に多い。ぬるい企画はプロダクトやサービスが完成してみると、確かに書いてある通りには完成しているのだが、なんか本質的な負(ふ)が解消されていないと言う結果になる。
手段(How)は、いずれ決めなければいけないが、少なくともこの段階ではない。

企画段階では、あくまで課題・問題(=負)をどれだけ掘り下げられるのかが勝負なのである。

規模感・予算感

最後に、規模感・予算感について触れておこう。

規模と予算については2つのアプローチ法がある。1つはまず要件を決めてそれに対してどれだけ投資額がかかるのかを見積もる方法。もう一つは、かけられる予算の枠がある中で、要件を絞り込む方法である。
組織や企画によってアプローチの取り方は様々で、後者であればそれほど心配はないが、要件ありきで進めていく場合は注意が必要だ。

どう言うことかと言うと、自宅のリフォームなど自分の身銭を切る場合は、要件と予算についてかなりシビアに見積もりながら企画を進めていくのだが、これが自分の金ではなく、組織のお金となると何故か人は好き勝手にやりたいことを言いがちなのである。

これは、システム業界出身の自分だからから感じることかもしれないが、新システムを導入するにあたって各部署にどのような「負」があるのかヒアリングしに回ると、こんなこともしたい、あんなこともしたい、こう言う機能があると便利と要件に再現がなくなる場合が多い。

もちろん、一回全ての「負」を洗い出した上で、何をすべきか取捨選択するのが一番良いのだが、企画は企画でかなり工数がかかる作業であり、ある種の割り切りが必要になる部分だ。本当に解決しなければならないことは何なのかを「何故何故分析」しながらしっかり掘り下げていき、優先度をつけていく。
そう言う意味で、企画要件は<MUST項目>と<WANT項目>に分け、優先度の高いものから並べていくといいだろう。

いかがだろうか?企画の掘り下げ方が見えてきただろうか?
本日は以上となる。