色々な働き方の形 〜個人事業主〜
ちょうどコロナが始まる前、契約先の女子社員が会社を退職するというので何人かでランチに行く機会があった。まだ次の職場は決めていないとのことだったので、せっかくなら起業でもしたらどう?と提案してみたら、「そんな危険なことできない!」みたいな反応だった。何気ない提案のつもりが、思ったより強い反応が返ってきて少し驚いた。
自分も会社を立てて、診断士としていろんな事業者が周りにいて、今でこそそんなに起業が怖いものでもないのが分かっているが、サラリーマンやOLからすると想像の範疇ではないのかもしれない。
自分も独立する時はかなり怖かったなぁと、今更ながらに懐かしくなってしまった。
まぁでも、一度自分の裁量で生きる自由を味わい、それなりに成功をしてしまうともう戻れないなとも思う。
サラリーマンと個人事業主どちらが危険か?
実は正社員として働いていたのは人生で3年半ほどで、ほとんどフリーランスとして生きている。リーマンショックの前後くらいに個人事業主として独立し、2016年に中小企業診断士としての資格を取得。2018年に合同会社を立てて今に至る。
必ずしも安定はしていなかったが、収入の面でいうと正社員よりも圧倒的に良い結果となっている。
システムエンジニアに限定すると全く同じ仕事をしていても、正社員や派遣社員の収入よりも、個人事業主としてやる仕事は3割以上実入りが違ってくる。仮に正社員として働く給与が40万円くらいだとすると、個人事業主で取る仕事は60万円ほどになる計算だ。単純計算で年240万円。10年で2400万円もの収入の差が出てくることになる。フリーランスは仕事が安定しないというが、今の時代、正社員になったところで雇用を守ってもらえるとは限らない。
サラリーマンが10年間身を粉にして働いて会社から放り出されるのと、個人事業主として2000万円以上の資産を抱えて仕事がなくなるのを比べれば、前者の方が、圧倒的に危険性が高いという見方もできるのである。
労働者が搾取される訳
これは人材の流動性が高く、旺盛な需要のあるシステム業界だからできることだろうか?
もちろんそうした面もあるが、個人事業主とサラリーマンでは収益構造が全く異なっていることが根本的な要因である。
システム業界にいると分かるが、正社員でも個人事業主でもシステムエンジニアとして現場に入ればやることは一緒。設計してプログラムを作ってテストをするだけである。それなのに手取りが数割も違ってしまうのは、提供しているものものの質が全く異なるからだ。
サラリーマンは「労働」を提供し、個人事業主は「成果・役務」を提供する。
サラリーマンは会社と雇用契約を行い、給与を対価に「労働」を提供している。しかし、労働として支払われる金額は、売上の一部でしかない。会社は人件費だけでなく、取引先から得た売上から、事務費用・家賃・その他の費用を支払う。その中には、誰かが働けなくなった場合に備えたリスク費用も含まれている。労働者の観点でいうと自分が使わないリソースやリスクに対する費用まで一緒に担わされているのである。
更にはそこで利益が出たからと行って、労働者に還元されるわけではない。労働者に対する支払いは既に済んでおり、余った利益は国か銀行か株主に還元されるのである。
一方、(個人)事業主はどうだろう?
個人事業主は営業費用、事務コストを自分が払わないといけないが、全てコミコミで請求するので、税金を除けば利益は全て自分の物になるのである。
しかも、労働契約は通常1社と専有契約になっている。サラリーマンの労働は、契約している間は市場に評価されることなく使い放題。一方、個人事業主は市場価格が基準になるため、金額が少ないと思えばより有利な条件の契約を探すこともできるので、その会社にとらわれる必要がない。
結局、労働者は「労働」しか売れないが、(個人)事業主は(労働を含んだ)「成果・役務」を誰に対しても売れるのである。
色々な働き方の形
独立や開業はリスクがある。
だが、リスクという言葉は「ブレ幅がある」という以上の意味はない。マイナスもあれば、大きくプラスにブレることもある。
だから、みんなまずは個人事業主になりましょう〜というのがこの場で言いたいことではない。色々な働き方の形があって、そういう選択肢もあるんだよ、ということを伝えたい。
そして思い込みを捨てて冷静に計算をして見れば、実はリスクが低くてリターンが高いなんてこともあるかもしれない。
別に個人事業主になったからと言って、フルスロットルで働かなければいけない訳ではない。
自分の裁量なのだから、そこは自分が決めればいい。
例えば主婦でも、家庭に一度引き込んだ女性が働く選択肢がパートしかないと思い込む必要はない。何かに傷ついて長いこと引きこもりになってしまった人間だって、別に人間関係を作らなくていい仕事を自分ではじめたっていいはずだ。また、ブラックな会社で身も心も削り続けていく世界しかないと思いこんでいる人がいるとしたら、そこを離れて全てがなくなるほど世界は狭くはないということを知ってほしい。
できることから商売やってみよう〜という考えてみると、人生が豊かになるかもしれない。
少なくとも僕は自分の人生がいろんな意味で豊かになっているということを、ここでお伝えしておこう。