2019年度中小企業白書 <概要> 雑感
ここ数年の日本経済の一番大きな課題は、少子高齢化・人口減少である。中小企業も例に漏れず、下の世代に事業をバトンタッチするとともに、生産性を向上するなど、課題に対応しなければならない。昨年度の中小企業白書は「人手不足」と「生産性革命」がテーマだったが、今年の中小企業白書は「経営者の世代交代」と「自己変革」「関わり方の再構築」がテーマになっている。
こうした内容は2014年あたりから目立ってきたが、既に一周した上でテーマを深掘りして行っている印象を持つ。
経営者の世代交代
事業継承は主に「親族への継承」「役員・従業員への継承」「社外への継承」の三つに分けられる。白書ではこのうち「親族への継承」への支援措置は大幅に前進したと評価した上で、親族外への継承も今後進めていく必要があるといっている。しかし、親族に対する継承より、親族外への継承は難易度が高い。
また、廃業するにも費用はかかるので、創業希望者などに部分的に経営資源の一部を譲渡すれば、お互いWinWinだよね。という提案を行なっている。
理屈としては分かるが、経験が浅い創業希望者がビジネスをそのまま引き継いで回すのはイメージしにくい。経営者になるということは、頭の良さや能力だけではなく頭の中である種のパラダイムシフトを経験しなければならない。パラダイムシフトは起こるときは一瞬だが、それを誘発するには時間と経験が必要となる。
自己変革
デジタル技術の進展に伴い、社会構造が大きく変わろうとしている。そうした環境変化に対応するために、中小企業も自己変革が必要であると白書は述べている。
具体的には、IoT・AIを活用した生産性向上の取組、大企業との連携などを視野に置くということを勧めている。
ただ、自分が関わる事業者を見る限りは、普段の日常的な業務に忙殺されてそうした時代の流れを把握しながら積極的に時代の波を捉えくほど余裕のある会社は少ない。一方で、契約先の大企業の若い社員が統計解析やデジタル技術を空気のように使いこなして仕事をしているのを見ると、そのギャップがなんとかならないのかとも思う。
仕組みを全て理解する必要はないと思うが、その技術があることでどんなことが可能になるのか、その意味をなんとか押さえたいところだ。ここら辺は我々のような専門家が介在するべきところでもある。
関わり方の再構築
地域内外の需要の取り込み、防災対策、リスク対応がテーマとなっている。
2011年の震災での危機意識をこのタイミングで見直せという趣旨なのかもしれないが、何故「関わり方の再構築」なのかがわかりにくい。
穿った見方になるかもしれないが、これも事業承継の一環と解釈できる。
事業継承の難しさは、株式や不動産などの資産の継承だけではない。その名の通り、「事業」を引き継いで仕事が回る状態になるところまで行き着く必要がある。事業の継承とは、仕入先や販売先など取引先との「関係」の継承も含まれる。上の世代の親父さん同士の関係で成り立っていた取引も、下の世代に引き継がれるタイミングで一回見直しが入る場合もある。だからこその「関わり方の再構築」ということである。
また、たとえ自分の会社の事業承継がうまく行った場合においても、その先の取引先との関係も確認し、ある日突然廃業されて商売が成り立たなくなると行ったことを回避する必要がある。徐々に細っていく地域経済の中でどう生き残るかもリスクとして検討しておく、というところが今回の白書の課題意識のようである。斜めに解釈しすぎかもしれないが。
まとめ
まとめると
- 親族内への継承はだいたい手を尽くしたから、親族外への継承も含めて進めていくよ。
- デジタル社会についていこうよ。
- 自分の会社だけで頑張るだけじゃなくて、大企業とも協力しようよ。
- サプライチェーンを見直ししようよ。
- いろんなリスクをしっかり意識しておこうよ。
といったことが、今年度の中小企業白書のテーマとなっている。
最後に、参考までに過去5年の概要を掲載しておく。
年度 | 分類 | 概要 |
2019年版 (H31/R1) |
第1部 平成30年度(2018年度)の中小企業の動向 | 第1部では、最近の中小企業の動向についての分析に加え、中小企業の人手不足や開廃業の状況などについて分析を行う。 第2部では、経営者の高齢化を踏まえ、引退する経営者や、新たに経営者になる者につ いて、その現状や課題などについて分析する。 第3部では、社会が大きく変化する中で、中小企業・小規模企業の経営者に期待される 自己変革や、周囲の関係者との関わり方の再構築について、検討材料を提供する。また、 その典型例として、災害対策について分析を行う。 |
第2部 経営者の世代交代 | ||
第3部 中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革 | ||
2018年版 (H30) |
第1部 平成29年度(2017年度)の中小企業の動向 | 第1部では、最近の中小企業の動向についての分析に加え、中小企業の労働生産性や経営の在り方等について分析を行う。 第2部では、第1部の分析結果を踏まえた上で、中小企業の生産性向上に向けた取組について分析を行う。具体的には、業務プロセスの見直し、人材活用面の工夫、IT利活用、設備投資、M&Aを中心とする事業再編・統合について取り上げる。 |
第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命 | ||
2017年版 (H29) |
第1部 平成28年度(2016年度)の中小企業の動向 | 第1部では、最近の中小企業の動向についての分析に加え、中小企業のライフサイクルと生産性及び中小企業の雇用環境と人手不足の現状について分析を行う。 第2部では、第1部の分析結果を踏まえた上で、中小企業のライフサイクルとそれを支える人材に着目し、起業・創業、事業の承継、新事業展開による成長及び人材確保の取組について分析する。 |
第2部 中小企業のライフサイクル | ||
2016年版 (H28) |
第1部 平成27年度(2015年度)の中小企業の動向 | 第1部では、最近の中小企業の動向についての分析に加え、中小企業の生産性について分析を行う。 第2部では、第1部の分析結果を踏まえた上で、中小企業の稼ぐ力の強化に向けた取組について分析を行う。具体的には、IT活用、海外展開、リスクマネジメントについて取り上げる。また、それらの取組を支える金融、及び、稼ぐ力の強化のための取組を適切に実行する経営力について分析を行う。 |
第2部 中小企業の稼ぐ力 | ||
2015年版 (H27) |
第1部 平成26年度(2014年度)の中小企業・小規模事業者の動向 | 第1部では、最近の中小企業・小規模事業者の動向についての分析に加え、より中長期的な観点から、中小企業・小規模事業者の収益力、地域の競争力について分析を行う。 第1部の分析結果を踏まえた上で、第2部では「企業」、第3部では「地域」に注目した分析を行う。具体的には、第2部では、企業の収益力向上に関するテーマとして、イノベーション・販路開拓、人材の確保・育成について取り上げる。さらに第3部では、経済・社会構造の変化に直面する中での、地域活性化の取組について取り上げる。その際、地域資源の活用や、地域の課題解決という視点から分析を行い、その結果を豊富な具体的な事例と併せて紹介する。 |
第2部 中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍 | ||
第3部 地域を考える―自らの変化と特性に向き合う― |