「初めての不動産事業」の研究 【概要編】② ~何故、このタイミングなのか?~

前回は、何故不動産事業への参入しようとしているのかを説明した。
今回は、何故このタイミングなのか?について記事にする。

不動産業界の商況

不動産業界の商況は悪い。

総務省「平成30年住宅・土地統計調査」によると2013年時調査と比較すると、2018年10月1日現在 「総住宅数は6240万7千戸と2.9%の増加,1世帯当たりの住宅数は1.16戸」となっており、供給過多の状態である。また、「空き家は 848 万9千戸と 3.6%の増加,空き家率は 13.6%と過去最高」(同調査)を記録しているとのこと。
これは実感とも合っていて、都内中央線沿線という好立地にもかかわらず、これまでのように収益が上げられずに苦労をしている大家さんがここ数年増加していると知り合いの税理士から聞いている。

東京ですらそうなのだから、地方ではもっとひどい。
以前のブログ(「未来予想図/ 土地担保システムの崩壊」)にも書いたが、固定資産税を払うだけの土地を無駄だなぁと思ったところで売るに売れず、寄付ですら自治体は受け取ってくれないそうだ。

国立社会保障・人口問題研究所のデータによると2020年の人口が1億2532万人から15年後の2035年には1億1522万まで減少し、およそ1割弱減少する。

今後15年で需要がそのまま1割消失することになる。荒っぽい言い方をすると、子供が生まれて中学生の半ばになる頃には単純計算で収入が1割減っているような世界になるということだ。

一方、需要が減ったのだから供給が減ると思いきや、恐ろしい事に住宅の供給は増え続けているのである。

最新のデータはまだないのだが、団塊の世代の引退に伴い退職金を不動産投資に当て込んでアパート・マンション建設が増加していると言われている。また今の税制のままだと今後、相続税節税のためのアパート・マンション建設なども確実に増えていく。(共同住宅を建てる事で借金をし、プラスの資産を相殺する事で相続税を圧縮または0に出来るため。)

要するに、需要が減っているのに、供給が増えている状態なのである。

さらに言えば、2018年5月スマートデイズ(女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を展開)の破綻に端を発したスルガ銀行の不正融資事件により、不動産の融資そのものが冷え込んでいる状態にある。聴くところによると以前スルガ銀行で融資を受けていたと言うだけで他の金融機関の審査が落とされる状況にあるようだ。また、事件の前までは自己資金が1割でも通っていたが、最近は少なくとも3割くらいは自己資金を用意しないといけないようだ。
現在はコロナ拡大により日銀が大量の資金を市場に供給している状況にあるが、金融緩和が終わればさらに借り入れが厳しい状況になるだろう。

こうした状況を鑑みると、もし不動産事業に乗り出したいのだと顧客に相談されたら、コンサルタントとしては間違いなくやめるべきだと助言するだろう。

不動産は「事業化」の時代へ

それでも何故、今、参入するのだろうか?

それは、ゲームのルールがチェンジしつつあるからだ。
これまで、高度経済成長時代は、共同住宅は建てれば利益が稼げた時代だった。核家族化が進行する事で、地方の人口が都市部に流入し、必要となる住宅はさらに増えた。土地を持っている人間にとっては、考えないでも銀行や建設会社の言う通りアパートやマンションを建てさえすれば濡れ手に粟。完全な売り手市場だったのである。

しかし、今後少子高齢化が進むに従って、需要が減り買い手市場へ移行していく。
現に礼金の習慣は以前と比べると少なくなってきているし、逆にフリーレントやリフォームで借り手を呼び込む流れが大きくなりつつある。敷金はさすがに無しにはできないが、東京都紛争防止条例(東京ルール)が整備され(→全国的な基準としても活用)、不当な要求ができない状況になっている。
これは、ポジティブに捉えれば、今までの歪つな市場が是正されたとも言える。

少子高齢化により、今後確かに生産年齢人口は減少するのだが、逆に高齢者数は増えていく。外国人も同様だろう。ライフスタイルも多様化し、これまで大量に供給されていた画一的な物件は廃れていく事になる。

また、今回の新型コロナ感染症拡大に伴うリモートワークの促進によって、通勤が如何に価値を生まない時間だったのか多くの人が気づいた事だろう。さすがにFace To Faceで会う機会が0でもいいとまでは言えないが、それでも毎日フルタイムで顔を合わせる必要はないことがわかったのではないだろうか?
そうすると必ずしも都心に住居を構える必要はなくなるし、企業自体も高いテナント料を払って社員全員が集まるオフィスを都心に用意する必要もなくなる。やがて、毎日は苦痛だが、週一くらいであれば、片道2~3時間の通勤に耐えられるくらいの距離の都市が発展する事になるかもしれない。

今後自動運転の時代に入れば街のあり方も変わっていくだろう。
自動運転の影響を受けるのは長距離トラックである。長距離トラックに人が乗らず、自動で休みなく物を運んでくれるならば、人が移動する必要がなくなる。人の移動がなくなれば、中間の店や街は衰退し、主要都市とその近郊が発展するようになる。極端な話、自動運転がしやすいように都市設計すら変わるかもしれない。
5Gの発達も無視することはできない。重機は現場にあっても人はリモートのコクピットの中で作業を行なっているかもしれない。
法的にクリアしなければならない課題はまだまだあるが、技術的にはそんなことが実現できる時代が、もう数年先には見えているのである。

要するに、今までの不動産事業のルールがどんな形であれ変わっていっているのである。少なくともこれまでのように寝ているだけで、お金になった時代は終わる。

ニーズの変化を捉え、新たな価値を提案しなければ生き残れない時代が来ようとしている。収益性を計算して、付加価値をつけて提案する。PDCAサイクルを回し、調整していく。不動産が本当の意味で「事業」になる時代が来る。
そして、不動産が事業(ビジネス)であるならば、それこそ自分の勝負の場である。

いま、アパートを立てている人間はどれだけ高齢化を意識しているだろうか?バリアフリー対応にはなっているだろうか?
これまで都心で安定的に利益を上げていた大家さんが、茹でガエルにならずに、新たな市場に開拓踏み出せるだろうか?
ROE経営を重視して大量に物件を保有してきた投資家は一瞬で市場にそっぽを向かれて、負の資産を大量に抱える事にはならないだろうか?

・・・と、区分所有1件も持っていない素人が申しているのだけれど、少なくとも今までのやり方が通用しなくなるのは間違いないだろう。

変化は脅威であるともに機会でもある。
その準備するのなら、実はもう遅いとすら言えるのである。