議事録は最強のマネジメントツールである

今よりそんなに離れていないちょっとの前の話、ことの起こりは仕事をしていたオフィスの上の階からの漏水から始まった。管理会社からあり得ない見積もりが来たのだが、オフィスには建築設計事務所も入っていたのでその人が窓口になって交渉をしたところ、管理会社の担当者がかなりいい加減な人間なことが分かった。仮に彼を担当者Aとすると、担当者Aは言うことはコロコロ変わるは、平気で遅刻するは、しまいには打ち合わせをスッポかす上に謝罪もないような人間だった。
たまたまその交渉の場に同席することになったのだが、担当者Aが仕事の話に入ってもメモ一つとっていなかったので「メモを取ったほうが良いんじゃないですか?」と設計事務所の人が注意すると、担当者Aは「レコーダーで録音しているから大丈夫です」と言ったのだった。
打ち合わせの時間は2時間くらいに及んでいたが、果たしてAは毎回打ち合わせのたびにレコーダーを聞き直すのだろうか?予想だが、彼は結局聞き直していないだろう。録音しただけで安心して、必要な事をピックアップできていないから、それだけ仕事の漏れが多いのだ。

会議に録音レコーダーは使うな

ただ、最近は議事録の代わりにレコーダーを使うのはAに限った話ではないようだ。
知り合いの経営者が言うには、会議の議事録に1週間もかかっているので原因を調べたら、会議の度にレコーダー起こしに数日使っていたそうだ。

なんと言う生産性の低さ・・・。
雑誌の取材や、言った言わないの一言が重要になるような経営の根幹を揺るがすような他社との会議ならいざ知らず、どんだけ時間をかけているんだ、という話だ。別にレコーダーを使うなとは言わないが、レコーダーは聞き直すだけで会議と同じ時間を消費する。それをまとめるなら尚更時間がかかる。

議事録を残す時に必要な点は4つだけだ。
・ 決定事項
・ 宿題
・ 日時や金額など具体的な数値
・ 決定に至ったロジック

ここが押さえられていたら、間の経緯や議論は特には要らない。「決定事項」「宿題」「数値」は言わずもがなだが「決定に至ったロジック」というのは、後から振り返った時になんでそうなったんだっけ?という部分だ。そこがないと、決定した本当の理由がわからず、後から結論がブレたりひっくり返されることが多い。

議事録は新人に任せるな

僕はプロジェクトのPMOという立場上、会議をファシリテーションしながら議事録まで作ってしまうが、これは、プロジェクターに議事録を表示しながら、全員が見ている場でメモをとり、相互理解を促しながら進むファシリテーションの一環でもある。なんか違った事を書くと、回り方良い意味でツッコミを入れてくれる。

これはマネジメントスタイルにもよるのでこの方法が絶対というわけではないが、議事録を単なる証跡くらいの位置づけで新人に取らせるのが一番非効率なやり方だと思う。
新人や権限のない立場で議事録をとると、「正確性」と「完全性」に重心が向きがちだ。特に会議や内容の意味がわからないと、書き漏らさないように一生懸命になるしかない。それで、レコーダーを使おうというのはある意味自然な流れにもなるが、数日間かけてテープお越しをやっているのは明らかに無駄だ。

議事録は会議の前に作り込む

議事録は会議の前に作り込むのが正しい。

もちろん会議の内容を会議の前に作れるはずはないが、会議はどこでやるのか、誰がくるのか、どんなアジェンダなのか、そこで何が論点になり、何が決まっていないと次に進めないのか、その結論を得るためにはどれだけの時間がかかりそうなのか、トピックの優先度は何か?をあらかじめ整理しておくのだ。
そうすることにより、前もってどんな情報を拾っておかなければいけないのかが明確になる。

そうした議事録を会議の前に作り込んでいれば、会議のファシリテーションもスムーズに運ぶし、一個一個のトピックの論点や内容も詳しく掘り下げられるのである。

議事録はコミュニケーションツールにもなる

でも、やっぱり重要な事を漏らしちゃうのは不安だよね、という気持ちはよく分かる。
話している内容が自分に明るい内容ばかりでない場合は尚更だ。
そんな時はどうするか?簡単である。

終わった後に「周りに聞く」のである。

大抵の場合、「そんなことも分かっていなかったのかよ」と突っ込まれるのが怖いのだが、そこは聞き方の問題だけの話なのであんまり気にする必要はない。難しい会議であればあるほど、大切なのは理解することであり、本質的には分かっていないのに分かったフリをすることの方が問題なのだ。
一応、旨い聞き方を教えると「前の議題に気を取られて、聞き逃しちゃったんだけど」と言えばいい。聞き逃している以上、分かってないのは当たり前で責められる感はない。
もちろん、聞くのは優しそうな人を選ぶ。そして同じ人に集中しないように分散する。

そして、理解の微妙なラインこそしっかりと「周りにきく」のが良い。
自分の理解が微妙なラインは実は他の出席者にとっても理解が微妙な可能性があるし、もしそのことに詳しい人間ならば曖昧な事を曖昧なままにしておかない責任ある人間と理解くれる方が大きい。そして、そうした話す機会を多く作れば作るほど、実はそんなに親しくなかった相手とも打ち解けるきっかけにもなったりする。

実は、議事録はコミュニケーションのきっかけにもなるのである。

議事録は最強のマネジメントツールである

そして、これが一番重要なこととだが、会議後足らない部分を議事録にまとめていると、そこで行われた議論だけでは見えてこなかった課題やリスクが洗い出されたりするのだ。
また、やることは決めたのに、いつまでに誰がやるのかがわからなかった事も明確になる。
それは必要に応じて緊急に対処する。
緊急でなければ、次の会議の議題として、次回議事録にメモをしておく。

これは、マネージャがやるのが一番適しているとも言える。
議事録は単なる会議の記録ではない。

議事録は最強のマネジメントツールなのである。