世界一やさしい損益分岐点分析の授業③:頑張り方を教えてくれるツール

前回、損益分岐点分析の観点から、利益を増やすためには4つのパターンしかない、という話をした。

利益 = 売上 ― 費用
売上と費用を分解すると、
利益=(販売数量 × 商品単価)-(固定費 + 変動費)

よって、利益を増やすには

  • 販売数量を増やす
  • 商品単価を上げる
  • 固定費を減らす
  • 変動費を減らす

である。

ここら辺の話は経営学部に入ればまず一番初めに習う話で、経営者としては基礎の基礎だが、案外実務で使われることは少ない。

損益分岐点分析が使いづらい理由

実務で損益分岐点分析が使いづらい理由の1つは、品目が多い場合の計算が複雑化するためだ。
そもそも経営理論で教えられる話は極めて単純なモデルに落とし込んでおり、実務に単純に適用できない。
今回も、メニューが1つしかないラーメン屋をモデルにしたが、現実にはそんなラーメン屋は存在しない。塩・味噌・醤油・とんこつと別れている場合はどのように計算するべきか?数種類なら平均を取るなどの方法があるかもしれないが、数千種類数万種類品物がある雑貨屋やホームセンターではどのように計算するべきか?

もう一つは、固定費と変動費をどのように分類していいか判断ができない点もある。
理論的には、販売量(営業量)の増減によって変化する費用は変動費であり、変化しないものは固定費だ。原材料費が変動費なのはいい。また家賃が固定費なのも納得はできる。
では人件費は?販売量(営業量)が増えれば残業しなければいけないし、それで回らなければさらにアルバイトでも雇わないといけないかもしれない。だったら、人件費は変動費ではないのか?
広告宣伝費は?会議費は?
たいていの費用は販売量(営業量)に応じて変動するのではないか?

それが、自分が一番初めに損益分岐点分析を習ったときに感じた違和感だった。

実務での損益分岐点分析

だが、実務での損益分岐点分析はもっと単純である。

今回、販売量(営業量)をラーメンの杯数で測ったが、たいていの場合「売上」そのものを使う。品目で営業量を捉えることもできるが、会社そのものを1つの生産機器のようにとらえて、その機器の利益産出能力を測るようなイメージである。

固定費や変動費はどうだろうか?

実はルールはない。では、自由に決めていいのだろうか?
いい。
損益分岐点分析はあくまで会社内部でしか使用しない管理会計なので、会社の中でルールを作り、そのルールを一貫性をもって適用し続けていれば特には問題ない。

ただし、自分がコンサルで入った会社で損益分岐点分析をする場合にどのように実施するのかというと、中小企業庁編平成15年度調査 「中小企業の原価指標」を使用する。

一個一個費目を読み込んでそれが変動費か固定費かクライアントに聞く時間はない。こういう言う方すると非常にいい加減に聞こえるが、まずは「中小企業の原価指標」にある項目に当てはめて、それでも載っていない費目は「えいやー」で決めていく。ただ、「中小企業の原価指標」を見ると分かるがやはり直接生産や販売にかかる費用を変動費として扱う傾向が強いので、そこを判断基準にする。決めたら時系列で損益分岐点がどのあたりにあるのかを探っていき、前述の4つの改善パターンで何ができるのかを洗い出していくのかを作業していく。

頑張り方を教えてくれるツール

損益分岐点分析の目的はあくまで、利益構造を分析し、改善につなげることなので、自然科学ほどの正確さが求められるわけではない。

実は、損益分岐点分析は損益計算書(P/L)しか見ていないので在庫が加味されていないとか、あくまで会計上の利益をベースにしているとか、必ずしも万能なツールでない。

しかし、損益分岐点分析は、社内で独自にルールを決めていい管理会計の手法である。

新製品単体でいくつ売れば利益に貢献するのかとか、事業部ごとに損益分岐点を出してみるとか使い方はいろいろ存在する。損益分岐点分析はどれほど働けば黒字になるのかの目安を割り出し、活動目標を具体化するために利用するのには非常に優れたツールである。

人間も組織もただ、がんばれと言われてがんばれない。どれくらいがんばればどれくらい結果を得られるのかわかるからこそ頑張れるのである。

一度、自分の会社がどのように利益を生み出しているのか分析してみると、やみくもではない、目的を持った次の進み方が見えてくるかもしれない。