経営から見たシステム導入工程(プロセス)5:まとめ

「経営者にとってのシステム導入プロセス」と言うタイトルで5回目の記事になる。
今回で最後である。

プロセスを知る意味

経営者がシステム導入プロセスを知る必要があるのか疑問に思うかもしれない。現在の主流はクラウドサービスであり、スクラッチ開発(一からプログラムを作る開発)はそれなりに体力のある企業に限られる。しかし、出来合いのサービスを完全に適用できるのであれば悩みはないが、大抵の場合、システムが完全にFITする場合は少ない。ちょっとした改変にせよ、システム開発の工程や押さえなければいけないポイントは同じであるので、知っておくに越したことはない。現代の経営は情報技術抜きに語ることはできず、なんらかのカスタマイズや機能追加を一つの選択肢として持てるかもてないかで、経営の自由度は大分変わってくるのである。

「企画&検討」の重要性

今回、システム開発をリフォームを例に説明したが、実際のところ、IT業界は建築業界と業界構造がよく似ている。
会計に「工事進行基準」を適用している点も同じだし、ディベロッパーやゼネコンのように商流がピラミッド型に広がっているのも一緒である。SEやプログラマは「デジタル土方(どかた)」などと揶揄されたりもする。(ちなみに工事は太陽が落ちたら即終了だが、IT業界は太陽が落ちてからが本来の意味での仕事である。)
要は、作っているものがリアルかバーチャルの違いしかない。
ここで知っておくポイントは、後工程へいけば行くほど、変更の自由度がなくなるという点だ。土台を作り、柱を立て、壁を作り、屋根まで乗せてしまった後に、何かを変えようと思ってもできないのである。結局のところ、発注側が関われるのは要件定義までで、そのプロジェクトが成功するか否かは、特に「企画&検討」の段階までで決まってしまうといっても過言ではない。
「企画&検討」は本当に形のな作業なのだが、これまでの記事で語ってきたように、実際の運用をいかに想像しながらなすべきことを深く検討し、自分にとっての当然の世界を自ら気づき、外の人間の分かる言葉に変え、すり合わせられるかが、成否を決めるのである。

「業務デザイン」の重要性

今回のシリーズでお伝えしたいことの底には、「どう業務を設計するかが最も重要である」ということが流れている。
システムは魔法の杖ではない。
悪魔の囁きを持つシステム会社の営業が、システム導入にすることによっていかにハッピーな楽園を語ろうとも甘言に乗せられてはいけない。実際、システムは優れているかもしれないが、レストランのようにお金さえ払えば美味しい食事が食べられるというものではない。
しっかりと自社のビジネスを分析し、ビジョンを実現するためにどのようにシステムを活用するのか、経営者自身が頭を捻(ひね)らないといけない。
業務デザインとは、人をどう配置し、どんな役割を与えるかということだ。
そのためには、組織を変更しないといけない場合もあるし、モチベーションを維持するための説明や教育なども伴う。どんなシステムを導入するかを、経営者本人が頭を痛めて理解をし、人の配置をどうするかを考え抜き、時に関係者のプライドを慮りながら、業務を定めていく作業が必要なのである。

最後に

「システムは手段であって目的ではない」と言われるが、一度出来上がってしまうとその投資額の大きさや扱う情報量の多さから、一つの枠組みとなってビジネスの在り方を規定してしまう。使えないシステムは関わる人間にとっては害悪となる。システムがそうだからというただそれだけの理由で無駄な作業が発生し、逆ザヤのコストすら発生させるのである。
一方でシステムは正しい使い方をすれば、人を価値のない仕事から解放し本質に向き合わせる力をもつ。それだけに、「なんか難しいことをやっている」「わかる人が考えればいい」と自分から離れて行かないでいただきたい。どう向き合うかということをしっかりと考え、理解し、伝え、対話していくことで、ビジネスの力を何倍にも拡大してくれるからである。