改正健康増進法・東京都受動喫煙防止条例①〜基本コンセプトと対処法

いよいよ、今年7月1日から学校・病院・児童福祉施設などの第一種施設では原則敷地内が禁煙となるし、東京都に限れば9月1日から飲食店内での店頭表示が義務付けになる。また、来年2020年4月1日は改正健康増進法・東京都受動喫煙防止条例が全面施行される。
要するに、オリンピックまでに欧米のレベルにまで近づけようという事である。

いろんな解説が現時点でもあるいはこれからも増えてくると思うが、当ブログの読み手はあくまで事業者なので、その観点で必要な情報をお伝えしよう。ちなみに、一番わかりやすいのは、受動喫煙防止対策施設管理者向けハンドブックで、今回の内容もこのハンドブックの抜粋なので、詳しい内容を見たい場合はこの資料を見ていただきたい。

基本コンセプト

改正健康増進法・東京都受動喫煙防止条例の基本コンセプトは、その名の通り「受動喫煙」を防止するのが目的である。なので、個人が喫煙を嗜(たしな)む事を妨げるものではない。自分の家では吸えるし、宿泊施設の客室もOK。「特定屋外喫煙所」を作れば、病院や行政機関でも喫煙は可能である。
要は、本人が健康上のリスクを抱えるのは自己責任となる。しかし、受動喫煙でも、肺がん・脳卒中・虚血性心疾患・乳幼児突然死症候群・子供の喘息などの健康影響が統計的には有意とされていて、鼻腔・服鼻腔がん、乳がんの原因になっている可能性が示唆されている。
よって、非喫煙者がタバコの煙を吸う可能性は徹底的に排除する。宿泊施設の客室はOKと言っても、客室以外では喫煙専用室もしくは指定たばこ喫煙室を作らなければならない。飲食店も同じで、他のお客さんがタバコの煙を吸う事があってはならないから、喫煙客を呼び込みたいなら、喫煙エリアを明確に区切るよう設備投資をしなさいという建て付けである。

法律は、細かい条件ばかりが目につき、ウチのお店どうなるんだっけ?と判断に迷うところがあるが、基本コンセプトを抑えた上で条件を理解していくと読み解き安くなる。
(※特に東京都は、健康影響を受けやすい20歳未満の子供や受動喫煙を防ぎにくい立場である従業員を守る観点で独自ルールを定めている。)

宿泊施設(2020/4/1~)

前述の通り、旅館・ホテルの客室は規制の対象外となっている。とは言え、タバコの匂いは非喫煙者にはかなり厳しいので現実的には、喫煙者用の部屋とそうでない部屋とで分け、予約時に選べるような運用になる。(すでになっている。)

また、屋外も規制の対象外だが、受動喫煙を生じさせる事がないような配慮をする必要がある。
客室以外の屋内エリアは、「喫煙専用室」もしくは「指定たばこ喫煙室」を作らなければならない。
「喫煙専用室」と「指定たばこ喫煙室」の違いは次回別途行う。

飲食店(店頭表示:2019/9/1~、全面適用:2020/4/1~)

屋内は、「喫煙専用室」もしくは「指定たばこ喫煙室」を作らなければならない。
屋外は規制の対象外だが、受動喫煙を生じさせる事がないような配慮をする必要がある。ただし、以下の要件を全て満たせば、店内の一部または全部を「喫煙可能室」にする事ができる。

  1. 2020/4/1時点で既に営業している
  2. 客席部分の床面積が100平方メートル以下
  3. 中小企業 or  個人経営
  4. 従業員がいない(※東京都のみ)

簡単に言えば、客席の床面積が100平方メートル以下で、家族経営のお店は流石に区切るスペースも経営体力もないので規制の対象から外れる、ということだ。
気をつけなければいけないのは、忙しいからとアルバイトを雇った瞬間から、(東京都では)適用除外になるので、現実的にはこのタイミングで全面禁煙にしてしまった方が良い。
「喫煙可能室」の説明は次回別途行う。

シガーバー(スナック)、タバコ販売店等(2020/4/1~)

喫煙者が喫煙のために来る場所は、規制の適用除外になっている。喫煙者が喫煙のために来る場所とはどんなところかというと、

①喫煙を目的とするシガーバーやスナック

  • タバコの対面販売(含む出張販売)をしているお店
  • 通常主食と認められる食事を主として提供していない事。(要は炭水化物を食事用に提供していない事)

②タバコ屋さん

  • 喫煙器具の販売をしている
  • 飲食営業していない

③公衆喫煙所

  • 受動喫煙を生じさせない場所

である。

その他(2020/4/1~)

2人以上の人が利用する施設。
屋内は、「喫煙専用室」もしくは「指定たばこ喫煙室」を作らなければならない。
屋外は規制の対象外だが、受動喫煙を生じさせる事がないような配慮をする必要がある。
よく大手スーパーでも地下駐車場近くに喫煙スペースを設けているところを見受けられるが、カートの返却口近くであったり、受動喫煙の場所としては不十分な場合も多いので、これを機にしっかり見直した方が良い。

対処法

今回の規制でもっとも影響を受けるのは、飲食店と宿泊施設である。
喫煙室を設備投資する体力のない中小企業は禁煙一択しかない。
全面禁煙した結果として何が起こるかというと、大体の場合売上が低下する。関係する飲食店で実験的に導入したが、喫煙者の常連さんは来なくなったので元に戻しました、という飲食店もあった。
全面禁煙にして子供連れや家族連れが来るようになりました〜という成功事例がよく記事などで紹介されるが、現実的には認知され、顧客層がシフトするのにタイムラグがあるため、経営体力のない中小事業者も一時的な顧客離れは覚悟をしなければならない。

法令によりやむを得ずに禁煙にしました〜という流れにすれば喫煙者の常連さんに対していい顔はできるが、だからと言ってまた彼らが継続的に来てくれる保証はない。注意しなければいけないのは、「止むを得ず」と言ってただ単に禁煙にするだけだと、顧客が離れたまま売上が戻らないという点である。

今回の受動喫煙防止の一連の流れは、単に禁煙や分煙を進めるのではなく、主要顧客を再定義し、そのためのメニューを用意し、どのようにサービスを行うか、事業コンセプトを再設定する必要があるのである。