世界一わかりやすい企画書の書き方② 〜記載内容〜

今回は、企画書にどんな内容を盛り込まないといけないのかと言う点を説明する。

前回もお断りしたが、企画書というのは業界によっても難易度によってもそれぞれ書き方や盛り込むべき情報量が変わってくる。「世界一わかりやすい企画書の書き方」とタイトルしているが、正解があるわけではない。もし、正解があるとしたら、書き方と言うより、目的が予定した通りに達成され、効果を上げることである。今回の内容は、システム業界的な視点で「良い」と推される書き方くらいに捉えていただきたい。

これを一つの考え方と捉えた上で、あとは自分の業界や企画の内容に従って応用していただければ幸甚である。

企画書のフォーマット

企画書に盛り込むべき内容は以下の通りとなる。

【背景・目的】
なぜ、この企画を実行しようとしているのか、背景と目的を記載する。背景と目的は分けて記載することもある。意味的には分けるべきだが、経験的には同じことを2度書くような表現になる場合もあるためまとめてしまって良い。

【前提条件と制約条件】
前提条件とは、企画開始または、推進するときに不可欠な外部の状況やイベント・条件のことを言う。例えば、

ライセンスの供与、融資実行、技術者の招へい

などである。続いて、「制約条件」とはなんだろうか?
制約条件とは、企画者(あるいはプロジェクト)からは変更のすることがきかない条件のことを言う。例えば、

予算の上限、達成期限の上限、達成すべき品質、契約条項

などである。
ある種達成目標に近いところもあるが、「制約」と言うだけあり、自分ではどうすることもできない枷(かせ)のようなものである。
例えばビッグデータ解析が必要な企画があるとして、プロジェクト期間中はデータサイエンティストのリソースの割り当てが必須だったとする。4月から6月までの3ヶ月間しかないリソースを割り当てられないことが決まっているとする。この時、データサイエンティストの割り当ては前提条件だろうか?制約条件だろうか? これは次のように分けられる

  説明 具体例
前提条件 企画開始または、推進するときに不可欠な外部の状況やイベント・条件 プロジェクト期間中はデータサイエンティストのリソースの割り当てられていること
制約条件 企画者(あるいはプロジェクト)からは変更のすることがきかない条件 データサイエンティストは、202X年4月〜6月までしか稼働できない

 

【期待効果】
企画が実行された場合に発生することが期待される効果のことであり、客観的に確認できる内容を記述する。「(達成)目標」と言う場合もあり、「目的」より具体的な内容を定性的、定量的両面で提示する。
定性的に求めることを「目的」とし、定量的に求めるべきことを「目標」に書くと区別している人もいるが、「目的」とは、その企画を思い立った動機付けなので定量的な目的があってもおかしくないし、逆に、事後確認する期待効果が必ずしも定量的であるとも限らない。
定性的な意味合いではチェックリストのように確認項目になり、定量的な意味合いではKPIのような指標をイメージするとわかりやすい。

【簡易見積もり】
「3秒見積もり」とか「ざっくり見積もり」とか呼び方もある。
見積もり取り方や精度は業界ごとに異なるが、企画時点ではざっくりとした予算感や規模感を関係者に伝える必要がある。
システム業界に限定して言うと、ベンダーは一度見積もりを出してしまうとその見積もりに動きが制約されるので、極力正確な見積もりを出そうと詳細な要件をヒアリングしてくる傾向にある。しかし、ここで重要なのは、管理レベルをどこに置くのかを決めることである。10億円の売上会社であれば、100万円くらいの投資は課長レベルでいいが、1000万円を超えるのであれば部長が、1億円を超えるのであればそれこそ社長直轄の案件になったりする。逆に言うと、管理レベルを超えないレベルの精度であれば大差はない。
あるいは、逆に簡易見積もりではなく、使っていい予算として提示される場合もある。

【現状(AsIs)とあるべき姿(ToBe)】
ここは次回詳しく述べるので今回の記事では割愛する。

【達成期限】
企画により生じたプロジェクトがいつまでに完了しないといけないか。
あるいは、企画で期待した効果がいつまでに発生しないといけないか。

【優先事項】
企画が承認され、いざそれが計画から実行に移されると、企画時には予想もしなかったような多くの問題や課題が発生してくる。例えば、予算が思ったよりかかってしまう、期間が伸びてしまう、予定していた品質が上がらない、スコープがいつの間にか拡大していた・・・など。
そうした問題が発生した時に何を優先するのか、その優先順位を決めていく。
ここで決めるべき内容は明確で、品質(Q)、コスト(C)、納期(D)、スコープ(S)のどれを優先するのかを決めておく。品質(Q)を落としても納期(D)を優先するのか?納期(Q)を遅らせてでも、当初のスコープ(S)を完全に実現するのか?などである。
全部、計画通りにやるべきなのは理想だが、本気で企画を実現するためには真摯な態度で優先度を設定していく。

【要件の詳細】
「やりたきこと」を落とし込む。
一番注意しなければいけないのは、「手段」と「目的」を区別すると言うことである。
これも、次回以降の記事で詳しく述べる。

【影響・トレードオフ】
その企画を実行することによって、目的や期待効果以外で発生する影響やトレードオフを記述する。
特に今までできていたことができなくなるような場合や逆に今までできなかったことができるような場合。
例えばシステムを導入することによってどこかの部門を丸っとなくし人件費を抑えるような企画の場合、「業務効率化」や「人件費抑制」が主目的になるが、それによって契約先との関係が変わってしまうような副作用のようなものがあれば、「影響・トレードオフ」に記載する。

【その他】
これ以外で何か補足事項があれば個別に項目立ててもらっても良い。
一般的によくあるのが「リスク」である。リスクとは「発生することが確定していない事象」なので、目的・期待効果、影響・トレードオフとも違う。
ただ、企画の段階でどこまでリスクを読み込んでおくのかと言うのは議論の分かれるところであるので、今回の記事からは割愛した。

回答例

さて、以上を踏まえて、前回リフォーム事例を企画書にまとめてみた。
今更で申し訳ないが、前回記事の設定は甘々なので書いていないことを補ってる部分もある。

記載項目 説明
背景・目的 T家義両親が70代を超え、特に義母の足が悪いため、今後の同居を見据えて東京都K市にある一戸建てを来年3月末までにバリアフリーに改造する
前提条件 リフォームに当たっては、本企画書が家族全員に同意されること
その上で、義両親も同居を承認するということ
制約条件 現在、一戸建て建築時のローン返済中であり、借入限度額500万円
期待効果 (定性面) 体調不安な義両親の見守りが可能となる点。子供の世話負荷軽減できる点
(定量面) 平日の夕食を義父に任せられるため、パートに出る時間が増やせる
(7Hx22日–5Hx17日)×1200円x12か月= 年99万3600円収入増加見込
簡易見積もり 500万弱のリフォーム費用上限
現状 2階は居住空間。1階は居間。和室は、来客が泊まれる
T奥は朝9時までに家のことを澄まし、パート。16:30~帰宅後、食事の用意
あるべき姿 1階和室をT家義両親の生活空間とし、移動時に転倒などリスクを軽減し、安全かつ安心して生活できること
義両親同居で経済的な不利益が発生しないこと
達成期限 20xx年03月末(4月を超えると、長女が受験する学年になる為)
優先事項 品質(Q)→納期(D)→コスト(C)→スコープ(S)
要件の詳細 <MUST事項>
•  高齢者が1階の各部屋を安全かつ安心して移動&居住できること
•  玄関から和室までの導線上、車いすも移動できること。
•  1階の浴室・洗面所・トイレなども高齢者が安全で利用のしやすい状態となっていること
•  2階へも安全に上り下りできる手段が講じられていること
(2階は車いすの移動は考えない)
<WANTS事項>
•  高齢者が2階に上がる事があった場合、トイレと8畳寝室は最低限安全かつ安心して移動できること
•  高齢者居室が夜寝ても冷えないようにする
影響・トレードオフ ・義両親が和室を居室にするため、泊りのお客さんが来ることができなくなる
その他 なし

 

本日は以上です。