中小企業白書2020③〜全体・まとめ〜

2020(令和2)年4月24日 中小企業庁より中小企業白書 が発表された。前2回では、新型コロナウィルス感染拡大や消費税増税による影響を見てきた。今回は、大元に戻って全体としてどんなことが書かれているかを検証してみよう。

中小企業白書を出す目的は、前年の中小企業の動向を分析することで課題を洗い出し、その課題に対する政策を立案することにある。もっと言えば、次年度へ向けた予算獲得を目指して作られており、中小企業白書を分析することで、補助金をはじめとする政策的な予算が今後どの分野にどれだけの重みで割り当たられるのかの方向感が見えてくる。
ただし、前年動向を分析して当年4月に出される日程のため、残念なことに新型コロナウィルス感染症の拡大に伴って当初の方向感が全く変わってしまっている状況にある。そういう点で今年の内容は意味ないかもしれないが、ファンダメンタル的な観点でどんな課題が注目されていたのかを見ておいて損はないだろう。

中小企業・小規模事業者の動向

中小企業白書に直接記載はないが、現在の日本の最も大きなテーマは「少子高齢化に伴う人口減少」である。人口減少は、需要と供給の消滅を意味する。先進国は概ね同様の課題を抱えているのだが、欧州はこれを移民で回避しようとしている。治安の悪化や宗教上の衝突を受容しても移民を推進するのは、左派的な人道主義だけでなく経済(学)的な要請も背景にある。

この大きな課題に対して、中小企業政策としてどのように向き合っていくのかが中小企業白書に通底するテーマとなっている。
過去5年、中小企業のイノベーション、起業・創業、事業の承継、人材確保、IT利活用、設備投資、M&Aといったテーマを掲げているが、これらは全て、どう生産性を上げて需要と供給を維持していくか、つまりは「少子高齢化に伴う人口減少」にどう対応していくのかというテーマに収束していく。
そうした前提を踏まえて、内容を見ていこう。

(以下、画像は「2020年版中小企業白書・小規模企業白書概要」からの抜粋)

2020年中小企業白書 総論部分「中小企業・小規模事業者の動向」では、まず現状(AsIs)分析されている。

企業の新陳代謝が進む一方で、生産性の高い企業の廃業も。

経営者の高齢化や後継者不足で休廃業が増えているが、その中には労働生産性が高く、黒字企業も少なくないので、どのようにそうした企業を承継し存続させていくのかが課題となっている。
ここでは、人口減少のなかで廃業はある程度やむを得ないが、それでも少なくとも良い企業は残るようにしないといけないよね、ということを述べている。

中小企業の目指す姿は多様であり、期待される役割や機能を意識した支援が重要に。

企業は多種多様であり、一律の支援では効果的な支援はできない。企業の役割や機能を意識した支援が必要とのこと。
このテーマでは、ではどういう企業に生き残ってもらうかを考えた時に、短絡的な支援でなくそれぞれの企業の特色にあった支援を展開していく必要がある。そういう点で「グローバル型」「サプライチェーン型」「地域支援型」「生活インフラ型」の4つの類型に企業を分類している。

テーマ別分析:「価値」を生み出す中小企業・小規模事業者

続けて現状分析を受けて、あるべき姿(ToBe)分析としてテーマを3つ設定している。

  1. 新たな価値を生み出す中小企業

ここでは「価値」をキーワードに4つのポイントを展開している。

・「付加価値」の増大

「付加価値」とは分かったようで分かりづらい概念だが、中小企業政策における「付加価値」は「人件費(と利益)」と思ってほぼ間違いない。しっかり給料払って、それでも売れるような物やサービスを作ってねという事である。また、残業規制や同一労働同一賃金といった「働き方改革」をはじめ、最低賃金の継続的な引上げ、被用者保険の適用拡大など、相次つぐ制度変更へ対応してね、というメッセージを発している。

・「新たな価値」の創造

顧客に新たな価値を提供するような他社との差別化は、付加価値の増大につながり、生産性の向上に貢献する。また、新たな事業領域に進出した企業の約4割で数量・単価が共に向上している。ちゃんと、差別化して、新事業領域に挑戦して「新たな価値」を創造していかないと生き残れないよ、という分析。

・人材投資や外部交流による生産性の向上

異業種企業や大学と連携している企業で生産性が大きく向上するため、外部の技術やノウハウを積極的に活用しよう。また、日本の人的資本投資(OFF- JT)が他国と比べて少ない。生産性をさらに伸ばせる可能性があるので人材への投資に取り組もう。
中小企業は内向きで内部に閉じこもりがちなのだろう。積極的に人材投資し、外部交流による生産性を向上させよう…との事。

 ・価格転化力の強化

製品・サービスの優位性が「価格に十分に反映されていない」とする企業が、約半数。優位性を顧客に発信していく取組や、価格競争からの脱却、発注側事業者との取引条件を改善し、しっかり、価格に転化する事で中小企業が最終的に獲得できる付加価値額を増やしていく必要がある。

  1. 地域で価値を生み出す小規模事業者

小規模事業者は、高齢者や女性が継続して長く働ける場を提供。小規模ならではの柔軟な働き方を可能としている事業者も多く存在。魅力ある労働環境を提供するためには、売上や利益を確保することも重要。

 

  1. 中小企業・小規模事業者と支援機関

中小企業が支援機関を活用すると、強みや経営課題が明確になるので積極的に活用する。ただ、経営計画を立てて終わってしまうことが多いので、しっかりPDCAサイクルを回すところまでやり切る必要がある。
支援機関側も慢性的なリソース不足がある。他の支援機関と連携しながら伴走型支援をする必要がある。また、「営業・販路開拓」や「財務」の分野では、支援機関同士の連携が進んでいるものの、「商品・サービス の開発等」、「技術・研究開発」などの分野では、更なる連携も期待される。

以上である。

雑感

現状分析(中小企業の動向)とあるべき姿(テーマ別分析)がイマイチどう対応関係にあるのか分かりづらいところはあるが、

(少子高齢化の中で)
・中小企業は差別化して果敢に新領域に踏み込む事で価値(価格)を上げよう。
・地域社会で重要な小規模事業者も売上・利益を確保しよう
・中小企業は支援をもっと活用して、支援側も連携しながら頑張ろう

というのが今年の中小企業白書のまとめである。

ただ、どんな政策をやるにせよ、根本的に「経営(=マネジメント)」できる人材が育っていないのが、実は日本の大きな課題なのではないかと思う。
ここら辺は簡単に語れる問題ではないのでいつか紙面を改めて記事にしたいが、高度成長期時代に設計され、労働集約的に「雇用」されることを前提とした教育制度で生み出された人間ばかりでは、社会が活性していかないのではないだろうか。
遠回りでも、自律的にマネジメントできる人材の育成するような必要があるように思う。