さぁ、プロジェクトをはじめよう<第2回> 〜プロジェクトははじまらない〜
プロジェクトは始まらない
「さぁ、プロジェクトをはじめよう」というタイトルの割にまだ、プロジェクトははじまらない。
まずは、プロジェクトをはじめる前に知っておかなければならないことに軽く触れておこう。この領域はビジネスアナリストやI T業界ならI Tストラテジストの領域で、プロジェクトの土台・出発点になる部分でもある。ここがいい加減だと、いくらマネージャが有能でもプロジェクトは失敗する。
プロジェクトとは「期間と目的を限定し、適切な人材を集めて目的志向的に課題の解決を図る組織的な枠組み、または、取り組み」である。これは既存の枠組みでは対応できない外部環境の変化に柔軟に対応するための一つの手段である。注意しなければいけないのは、プロジェクトという組織体制を採用したところで、組織のもつ経営資源やリソースの総量が増える訳ではない、という点だ。
前回の記事では、新製品開発をするために組織横断的に人を集めてプロジェクトを立ち上げる例を挙げた。健康食品事業部、医療事業部、薬品事業部のそれぞれの強みを掛け合わせる…と言えば聞こえはいいが、プロジェクトに参加するメンバーや設備は今あるものを活用するため、増えた仕事は残業で、という訳には行かないのである。
よって、既存事業と新プロジェクトにどちらにどれだけウェイトを掛けるのかを経営側が判断しなければならない。金融機関から資金を借り入れてリソースを増やすことはできるが、それも経営上の判断である。
プロジェクトは経営課題解決の一つの手段に過ぎない
要するにプロジェクト構築も経営施策の一つなのである。
プロジェクトというのは非常に柔軟で環境変化に適用力の強い組織形態ではあるが、あくまで経営課題を解決するための一つの手段でしかない。
ベースとなるのは経営理念や経営戦略であり、数ある経営課題の中で優先順位をつけた上で、どう経営資源を割り振っていくのかを具体的に決めなければいけない。そのため、
経営理念 → 経営戦略 → 経営課題ツリー → 新事業モデル → ソリューション候補洗い出し → フィジビリ・スタディ → 投資対効果分析 → 最終ソリューション決定 → ロードマップ・ビジネスケース・詳細化課題
というプロセスを経て、その結果として、もっとも有効な手段を採用するべきである。
検討の結果、外注する場合もあるし、M&Aで能力のある企業をそのまま購入することもある。部署を立ち上げることもあるし、長期的な展望のもとにまるまる組織変更する可能性も存在する。
繰り返しになるが、経営上の意思決定をするためにしっかり課題を掘り下げ、その課題解決の手段の一つとしてプロジェクトが存在するのだという点は固く認識しておく必要がある。
これは口でいうほど簡単な話ではない。
最近で言えば、「A I」「BigData」「IoT」「5G」などの新たな技術的なトレンドが流行しているが、果たして経営戦略上の課題解決を掘り下げた結果としてそうした新技術を取り入れようとしているだろうか?そうであればいいが、経営上の価値を見極めて新技術を取り入れている企業は日本はまだまだ少ない。
オーナーとマネージャの役割
プロジェクトのオーナー(出資者・予算の執行者)は何故このプロジェクトが必要なのか、いくらまでかけて、どのような効果を得たいのか?またそれをいつまでに実現する必要があるのかをしっかりと練り込んでおく必要がある。
また、プロジェクトマネージャも言われた事をやるというだけでは不十分で、経営課題やビジネス上の投資対効果、何故プロジェクトという形態でなければそれが実現できないのか?など背景をしっかり掘り下げた上でプロジェクトを推進していく必要がある。
大体において、プロジェクトのオーナー(出資者・予算の執行者)の求めることは抽象的で大雑把であり、決められていないことの方が多い。そのためにビジネス上のコンテクスト(文脈)を理解していないと、出来上がりが見えてきてから求めていたものと違うのだと言われる結果を招くのである。
今回の一連の記事では、プロジェクトを始めるための基礎知識的なところを紹介することが目的だが、経営する立場としては、プロジェクトを建てつけるまでの準備に経営側がしっかり汗をかく必要があるという点を心に止めておくべきだ。また、プロジェクトが立ち上がってからも、そもそものビジネス上の目的に寄与する動きをしているのかしっかり手綱を握っておく必要があるのである。