「初めての不動産事業」の研究 【概要編】⑤ ~不動産事業の全体像~

前回の記事では不動産事業のビジネスモデルに関して説明した。
今日は、不動産事業の全体像に関して紹介していく。

今回の「初めての不動産事業」の研究シリーズでは、敢えて不動産「投資」というタイトルとはしなかった。
「投資」という言葉は、お金が自分で働いて大きくなって戻ってくるイメージが強い。不動産にそうした側面がないわけではないが、株やFXなどと違って単に数字としてだけ取り扱うと、「【概要編】③~スルガ銀行不正融資事件~」で紹介したように大きく足元を救われる結果になる。

不動産は入居者が入ってしまえば安定的な収益が生まれる仕組みにはなっており、それが不労所得を得る手段と言われる所以だが、タイミングと質が違うだけであって、実態として様々な場面で意思決定する必要があり、主体的に働かないといけない局面は多い。また、購入した物件には、具体的な生活をするために人が入居するのである。会おうと思えば会える客に住宅をサービスする以上、「投資」としてではなく「事業」として臨む必要がある。人口が減少して買い手市場がトレンド化するこれからは特にそうなるだろう。
特に不動産は購入時に意識が向きがちだが、それ以外の部分もしっかりと認識したい。

不動産事業の全体像を独自にまとめてみた。
不動産事業を「企画・検討」「物件ライフサイクル」「不動産事業の管理基盤」の大きく3つに分ける。

企画・検討

「企画・検討」が何かというと、事業全体としてどうあるべきかを規定する部分になる。
そもそも何を目的に不動産事業を始めるかが重要になる。資産を残したいのか、すぐにキャッシュが欲しいのか、年金が目当てなのかなど。また、今どれくらいの資金があるのか、担保にできるものがあるのか、借入れは多くても良いのか悪いのか・・・目的に加えて諸条件を加味した場合に、チャレンジしにいくのか、堅実にいくのかなどどういう投資スタンスを取るのかを定める。

また、不動産を購入すると1つの物件を有利に購入するのかに意識が向きがちになるが、1件の物件に全ての資金を投入してしまうとその次に物件を増やすことができない。よって、長期的に見た場合にいくらまで資金を投じるのか、またどのくらいまで借入れをするのかなど、長期的な事業としての検討をここでする。

物件ライフサイクル

「企画・検討」で投資スタンスと全体的なバランスが設計されると、1つの物件にどれくらいの予算が使えるのかが見えてくる。その上で、物件ライフサイクルでは1つの物件に対する計画から売却までを管理する。

  • 計画プロセス

物件を探して、購入し、入居者がいない場合はリフォームして入居者付けをするまでには大体3ヶ月くらいは必要になる。大まかにいつまでに購入するのかを計画する。物件が見つかってすぐ融資を求めても降りるとは限らないので、その調整期間なども見込んでおく。
また、不動産は初めは自分の足で探さなければならない。どこのエリアを選ぶのか、どういった層をターゲットにするのか。地方から出てきた大学生の一人暮らしなら大学とバイトのしやすい繁華街の中間あたりのエリアを探るとか、女性の一人ぐらしなら商店街など人通りが多く、セキュリティの強い物件を選ぶなど。
そのものの物件があるとは限らないが、ある程度あたりをつけて絞り込んだ上で、いつまでに何をするのか、どういう予算でどのような物件を購入する予定なのか事業計画書にまとめていく。

  • 購入プロセス

不動産サイトやターゲットエリアの不動産で物件情報を収集し、比較をしていく。具体的な物件がある程度絞り込めてきたら、そのエリアの相場、市区町村情報、公共施設、治安、コンビニやスーパーの所在など周辺状況を確認する。物件が立つ土地や制約、建物、部屋とその設備のチェックなど、ドキュメントから判断できるレベルで物件の1次チェックを行う。そしてある程度購入に向けて具体化したい状況になったら、修復歴・滞納・隣人・管理会社など不動産屋に問い合わせる。ここまでは現物を見ないで分かる範囲である。
そこで問題が見つからなければ、現地調査に赴く。これを2次チェックとする。すでに入居者がいる場合は内見まではできないが、実際に足を運んで自分の目で周辺状況や建物の外側の状態までは確認できる。リフォームが必要であれば、何にどのくらいの金額をかけるかを検討し、事業計画書を具体化する。
ここで購入の意思があれば、金融機関などに事業計画書を持参し、融資の依頼を行う。あとは、不動産買付証明書で購入の申し込みを行い、審査、決定、手続き、引き渡しとなる。

  • 入退居プロセス

購入及び引き渡しが済めば、続いて「入退居プロセス」へ入る。
既に入居者がいれば特にすることはないが、居なければ入居者を募集する。募集にあたっては、家賃・敷金・礼金・広告料などを決めなければならない。どこに募集を依頼するのか、または管理はどこにお願いするのかもここで決める必要がある。
事前にリフォームが計画されていれば、この入居者が居ないうちにリフォームを行う。
人が退去する場合は、敷金返還の手続き、クリーニングの実施などを行う。

  • 保守・運用プロセス

ここでは、入金確認、修繕費積立、CF確認、空室率、CF、運用状況評価などの資金管理や、周辺状況に何か変化がなかったかを定期的に確認が必要になる。また、1棟建てのアパートやマンションでは、10年から15年単位で大規模修繕行う必要があるため、事前に大規模修繕計画を策定し、必要に応じてその実施が必要となる。具体的な入居者との調整は管理会社が行ってくれるが、資金提供と修繕スコープの確定などはオーナーの意思で行う。

  • 売却プロセス

不動産事業は10年20年単位で借り入れをするため、長期的な事業となる。
そんな中で、借入金の返済が終了したタイミングや不動産の耐用年数がすぎた場合にその物件をどのようにするのかが課題となる。修繕をしてより寿命を伸ばすのか、建て替えるのか、はたまた売却するのか?
売却する場合には売却計画を策定し、残債処理を行い、実際に不動産屋へ依頼する。

不動産事業の管理基盤

「不動産事業の管理基盤」では、特にプロセスを限定せずに共通的にマネジメントするべき内容をまとめている。

  • 不動産知識

この「不動産事業の管理基盤」の最も基本的なベースの部分が不動産の知識だ。例えば、構築物にはその素材から「鉄筋コンクリート造」から「金属造」「木造」などに分かれる。この構築物の種類ごとに耐用年数が法律で定められており、この耐用年数により、金融機関の返済年数が定められることになる。こうした知識は、どのプロセスや管理項目にも横断的に関わってくる内容であり、不動産を事業化する上で最も基本的な知識となる。

  • 財務管理

不動産は購入して終わりではない。入退去時には入退去時の、保守・運用時には保守運用時の財務管理がある。最終的にキャッシュを生んで黒字化するためには、統合的に財務をコントロールしていく必要がある。

  • リスク管理

不動産には特有のリスクがある。空き家リスク、賃料下落リスク、滞納リスク、自殺・孤独死リスク、御近所トラブルなどのミクロのリスクから、地震や台風などの災害リスク、金利上昇リスクなどのマクロのリスクが存在する。
こうしたリスクに対処するために、場合により保険などで移転を図る。

  • エリア管理

これもリスクの一部かもしれないが、不動産は物件が移動できないにも関わらず時に激しく、時に斬進的に環境が変化していく。
大きくは日本経済や人口動態。小さなところでは変化駅や道路ができたり、工場・事業所・大学などが移転してしまうことにより地域の不動産価値が変わる場合がある。こうした変化は必ずしもマイナスのものばかりとは限らないが、定期的にそのエリアの環境変化を監視していく必要がある。

  • ステークホルダー管理

不動産は不動産屋や管理会社、入居者とだけやり取りするわけではない。
税金に関しては税理士、登記に関しては司法書士、境界に関しては土地家屋調査士、資産価値に関しては不動産鑑定士、トラブルに関しては弁護士など様々な専門家が関与してくることになる。不要な出費を抑えたいところではあるが、必要なところに必要な費用をかけないとかえって手間暇がかかって面倒を起こす場合もある。こうしたステークホルダーとはなるべく良好な関係を構築しておきたい。

いかがだろうか?
企画・検討プロセスで長期的な事業としての進み方を決め、不動産事業の管理基盤を土台に、物件ライフサイクルを回していく。これが、不動産事業の全体像である。