「初めての不動産事業」の研究 【概要編】④ ~ビジネスモデル~

今日の記事では、不動産事業の最も基本的な収支の考え方をまとめる。

ビジネスとして不動産を捉えた時に、いくらその事業に投資していくら売上(家賃収入)を上げるか?費用はどれくらいかかるか?利益率をどのように捉えるか?不動産投資入門と題された本には必ず載っている内容だが、今回は概要編なのでざっくり全体像を捉えられるように内容を紹介する。
ちなみに今回出てくる物件や数値は架空のものであることはお断りしておく。例えば、今回借入金利を3%で設定しているが、どのくらいの利率でいくらまで借りられるかは本人の属性によるのであくまで参考値くらいに捉えていただきたい。

物件詳細

以下のような物件があったとする。

  • 鉄骨造2階建アパート [築12年,10室]
  • 物件価格:5000万円
  • 家賃収入:600万円/年 [平均家賃6.00万円 (+管理費2500円) /月,入居率80%]

家賃収入は、今回入居率80%で計算している。(6.25万円x12ヶ月x10室x入居率80%)
これを以下のように資金を調達して購入するとする。

  • 自己資金:1500万円
  • 借入金:4000万円 [金利:3% , 借入期間:20年]

果たしてこの物件はどのくらいのキャッシュフローを生むことになるだろうか?

一部計算は割愛するが、上記の条件をまとめると概ね以下のような図になる。

キャッシュアウトの概要

費用は大きく、初期コストとランニングコストに分けられる。

初期コストは物件購入費用だけではなく、不動産屋に対する仲介手数料、登記手続き費用(印紙代、登録免許税や司法書士手数料)、ローン手数料、火災保険料、各種税金(固定資産税、都市計画税、不動産取得税)などがかかってくる。それぞれどれくらいになるかは物件により替わるので一概には言えないが、まとめると概ね物件購入価格の1割くらいを目安に計算しておく。今回は、

  • 諸費用 = 物件価格5000万円 × 0.1 = 500万円

となる。
なので、実際にかかる購入金額は、物件サイトや不動産屋さんの広告で表示されている価格に1.1倍するくらいをイメージしておく。

続いてランニングコストだが、固定資産税、都市計画税、修繕費・修繕積立金、火災保険料、管理費などがかかってくる。管理費は家賃徴収・クレーム対応などのPMフィーと呼ばれる費用や、清掃、エレベータ点検保守、セキュリティ費用等である。物件が新しければ修繕費は少なくて済むし、固定資産税などは地域によって異なるので一律には言えないが、家賃収入の25〜35%を想定しておく。今回は家賃収入の30%を経費として計上する。

ランニングコスト = 家賃収入600万円/年 × 0.3 = 180万円/年

念のためだが、ここでいうランニングコストは購入時のシミュレーション用に使う仮の値でしかない。家賃収入を基準に設定してはいるがランニングコストは入居しようがしまいがかかってくる固定費なので、入居者が減ったらその分ランニングコストが安くなるように解釈してはならない。

表面利回りと実質利回り

コストの考え方がわかったところで、今回の物件の利回りを見てみる。まず、一番単純な考え方は「表面利回り」である。表面利回りは、

表面利回り = 年間家賃収入 ÷ 物件価格

である。今回の例で言えば、

年間家賃収入600万円 ÷ 物件価格5000万円 = 12%

となる。続いて実質利回りは、

実質利回り = (年間家賃収入 – 年間費用)÷(購入金額 + 諸費用)

となる。今回の例で言えば

(家賃収入600万円 – ランニングコスト180万円)÷ (購入金額5000万円 + 諸費用500万円) = 7.64(%)

今回の例では4.36%ほど差が生じているが、実質利回りは表面利回りより概ね2〜4%位低くなる。

不動産投資の世界で特に断りなく「利回り」と言えば、表面利回りを指す。
不動産投資サイトなどで表示されている利回りも表面利回りの方である。諸経費やランニングコストを加味していないので、営業上都合よく利回りを高く見せているようにも見えるが、実際にどれくらい諸経費やランニングコストを見積もるかは人や場合による。諸費用にリフォーム費用まで含める場合もあるので、そこは基準を設定して自分で調整しなければならない。

事業の評価:自己資本利益率(ROE)

注意が必要なのはこれからだ。
本当にこの物件への投資が利益になるかは、どのように資金を調達するかによる。
もし、全額自己資金で賄うのであれば、実質利回り7.64(%)だが、逆に全額借入金で賄い、仮に金利が3%であれば

実質利回り7.64% - 借入金利3% = 4.64%

となる。新型コロナウィルス感染症拡大が発生する直前だと東京では築年数が10年以内の物件は表面利回り7%を超える事はほとんどなかった。表面利回り12%→4.64%になるのであれば、表面利回り7~8%だとほとんど利回りなくなってしまう計算になる。
この数値を持って不動産はほとんど投資として魅力がないという専門家もいるが、実際事業として評価する場合は回収額/投資額・・・つまりは自己資本利益率(ROE)でみるべきだ。結局のところ、いくら身銭を切っていくら現金が入って来るかが重要だからだ。
自己資本利益率(ROE)は、通常は当期純利益を用いるが、今回は税引き前年間キャッシュフロー(CF)を用いる。

自己資本利益率(ROE) = 税引き前年間CF ÷ 自己資金

今回の例で言えば、

税引き前年間CF 150万円 ÷ 自己資金1500万円 =  10%

となる。これは、自己資金1500万円を投資することで毎年150万円の現金が入って来ることを意味する。
本当は、税引後当期純利益を利用して減価償却費も加味したいところではあるが、そこまでいくと物件の耐用年数なども考慮することになり、計算がどんどんと精緻化していく。
最終的に金融機関に提出する事業計画書を作成する時には、物件の耐用年数、減価償却費、借入期間、家賃の下落率などを加味してもっと精緻に数字を落とし込む必要がある。また、借入期間20年で毎年どれくらいの利息と元金になるかは別途計算式必要になるが、今回は説明が多くなるので割愛した。
いずれにせよ、物件をスクリーニングするレベルでは「表面利回り」「実質利回り」「自己資本利益率(ROE)」の3つを押さえておけば十分だろう。

なんとなく、不動産事業の収益構造(ビジネスモデル)が見えてきただろうか?

本日は以上となる。