非定型業務の生産性を高める〜1ヶ月の仕事が5分で霧散した話〜

今回の話は明確な答えがあるわけではなく、現時点での考えのまとめに過ぎない点をお断りしておく。今のところ、「こんな感じじゃないかしら?」程度の話。

1ヶ月の仕事が5分で霧散した話

以前入っていた契約先で、かなりロジカルで頭のいい課長と仕事をした事があった。

システム部を実質的に統括する彼は、さらなる品質向上を図っていた。
ディレクション業務の品質を計測する指標をどうするか、例えばレビューの指摘数だとか、開発側からの問い合わせ数だとか、僕はチームリーダーと喧々諤々の議論を重ねていた。それを課長に持っていっては、様々なダメ出しを出され、突き返されては様々な角度で検討を重ねた。
ディレクション業務というのは、非常に曖昧な作業が多く、品質を上げると一言で言っても掛け声で終わる場合が多い。そこをしっかり客観的な指標に落とし込むという作業は、難しくもあったがある種刺激的でもあった。

理論的にも現場的にも問題のなく行けそうだというレベルにようやく仕上げることができるのに一月くらいはかかっていた。
その結論を携え、事業部長も参加する経営会議に出席することになった。
発表は課長がやるが、細部のフォローをするために待機するような形だった。

さて、議題が回り、課長の発表の番となった。

「それでは、〇〇障害に併せて、システム開発部からさらなる品質強化施策の説明を…」と話し始めると、パラパラ資料を読んでいた事業部長が、「え?なんで?」と話を止めた。
「システム開発部の品質を悪いとは認識してないよ。〇〇障害は確かに問題だったけど、恒久対応まで済んでいるよね」
「〇〇障害は企画工程での検討不足が原因だったので、再発防止の意味合いを兼ねてディレクション業務の品質を上げる必要があり…」
「そちらより案件の量を扱えるように考えたほしいのだけれど。システム開発部が品質を上げたいのは分かるけれども、期間あたりの障害発生件数と影響度の基準から、所定の範囲に収まっているのであれば、事業的にはそこは許容する。障害があっていいとは言わないけれども、今は、企画数を増やす方にウェイトをおいてもらいたいんだが」と事業部長が話を止めてしまった。

結局、議題は持ち帰りとなったが、それ以降議論されることはなかった。

目的を定める

これはある種、「あるある」な話では、ないだろうか?
依頼元が求めていることと全く異なるアウトプットを提示し、根底が覆されるような事例である。

ここまで極端でなくても、例えばドキュメントを作るだけ作って、実は求める資料でなかった場合などは若手の社員にありがちなことである。結局、進む方向を間違えるといくら早くたどり着けてもその分の工数は全くの無駄となる。仮にもし真逆の方向に進んでいるとしたら、全速力でゴールから離れていることにもなりかねない。

既にアウトプットするものが決まった定形業務ならば成果物が明確なためこうしたミスは起こりにくいが、企画や計画などの非定型業務は、まずはその目的を定めることが大きな仕事となる。

コミュニケーションと信頼関係

だが、この「ゴールを定める」という言葉の意味は想定以上に難しい。

事例で紹介した、「システム開発部として品質を上げる」という判断は通常ならば否定されることではない。また、課長は、それを実行する意志と能力も持ち合わせていたような人物でもあったと思う。
ただ、後から知ったことだが、事業部長とシステム開発部の課長は実はそんなに折り合いが良くなかったようだ。ここでは、事業部長が意地悪をしたとか、社内の派閥があってとかそういう話をしたいわけではない。ただ単に、必要なコミュニケーションが取れていなかったということだ。必要なコミュニケーションとは「今度こういう方針で進もうとしているんだけど」と事前のさりげない確認である。

よく仕事においてコミュニケーションが大切だという。
だが、単に仲良しでランチを一緒に食べに行くのがコミュニケーションではない。ビジネスにおけるコミュニケーションとは信頼関係の構築した上でのやり取りのことである。さらに言えば、必要な失敗を許容できるような信頼関係だ。

信頼関係のないところですすめるビジネスは、非常に防御的な進み方となる。防御的とは、暗闇の中であたりを警戒しながらゆっくり歩くようなイメージで、非常にその歩みが遅くなる。さらに、「防御的」を超えて職場が萎縮したような状況になると、確認しなければいけない事柄も確認せず、ギリギリになって意味のないものが出てくることになる。

部下がうまく動いてくれない、言ったことを理解しくれないと嘆く上司がいたら、案外その上司自身が原因の場合も多い。

中間レビューの仕組みづくり

だから仲良くしましょうと言うつもりはない。
風通しが良く、自然とそういうことができるような現場は理想ではあるが、現実はそうもいかない場合が多い。

ただ、考え方を変えれば、非定型業務というのはゴールをどう作るかということが大切なわけだから、進むだけ進んでから調整するのではなく、しっかりポイントポイントで現在地を確認しながら進むようにするしかない。ビジネスは目的に向かって合理的に動くことを求められているわけだから、好き嫌い、合う合わないに関係なく割り切って、仕組みとして確認ポイントを増やせばよいのである。

具体的には、進む前の方向性を利害関係者に確認した上で中間レビューと言う形で、3割版、7割版、9割版と成果物のレビューを行う仕組みを作れば良いのではないだろうか?

非定型業務は、アウトプットが明確な製造業などのように簡単に生産性を測ることはできない。
ただ、そうは言っても「この企画や計画はよく練られているな」と感覚的に感じることはままあったりする。もしかしたらなんらかの賢い考え方で非定型業務を数値化できる部分もあるかもしれないが、そこを突き詰めて考えるよりも、マメに確認してゴールと現在値を測る仕組みを作るのが早道なのではないだろうか?