商品単価を上げる方法〜何故、牛丼屋はプレミアム牛丼を作ったか?

この間、吉野家で特に値段を気にせずに「麻辣(マーラー)牛鍋膳」を頼んだところ、税込で823円だった。唐辛子が効いたサッパリ系の出汁で美味しくいただけたのだが、小市民な自分は「吉野家で800円台のメニュー!?」と愕然とした思いもある。
そういえば、デフレが騒がれた頃は300円台で普通に食べられた思い出もある。
いつくらいから牛丼の値段が上がっただろう。プレミアム牛丼あたりから、徐々に値段が上がっていたような気もする。

やはり、消費税が10%に上がって以降、税率以上に多少上乗せされている部分もあり、ジワリと物価全体が上がったような印象がある。

今回は商品単価を上げる方法を触れてみたい。

①値段を上げる

利益を増やすためには、価格を上げて客が減るほうがいいのか、価格を下げて客が増えるほうがいいのかはよく問題になる。

例えば、商品単価1000円 原価500円のラーメンで1日100名の利用客があるとき、単価が10%上がって利用客が10%下がる場合と単価を10%下げて利用客が10%上がる場合とどちらが良いだろうか?

もともとの利益:(1,000円-500円)×100名=50,000円
単価が10%上がって利用客が10%下がる場合:(1,100円-500円)×90名=54,000円
単価が10%下がって利用客が10%上がる場合:(900円-500円)×110名=44,000円

式を見れば分かる通り、値上げの効果と集客の効果では、利益の面では圧倒的に値上げの効果の方が高い。また、値上げは経営者がコントロールできるが、集客は経営者がコントロールしにくい施策である。値段を安くしたところで、食事を必要とする人の絶対数が増えるわけでもないし、値段が安くなったからラーメン二杯食べようという類のものでもない。

よって経営の教科書を読むと、利益を増やすためには価格を上げる事が正解のように印象付けられる。
だが、値上げは現実的にはかなり難しい方法の一つである。

商品の値段を上げる場合は顧客の納得感が必要だ。
何の理由もなく値段を上げるということは、提供する価値は変わらないのに余計にくれと主張するのに等しく、相手に軽く扱った印象を与える。価格には、数字以上に顧客との関係性が内包されている。そして、その関係性が壊れ、一度離れた顧客を呼び戻すのは新規客を呼び込むよりも遥かに大変なのである。

牛丼屋が主力商品の牛丼の値段を上げるために、わざわざ「プレミアム牛丼」を開発した理由もここにある。通常の牛丼を残しているので「プレミアム牛丼」はアップセルに近い部分もあるが、+αの価値があるのでそれだけ値段をあげますよ…という宣言なのである。

②アップセルとクロスセル

では、どのように商品の単価を上げていけばよいのだろうか?
一つは、顧客自身に高い方を選んでもらうことだ。これをアップセルという。要は、高い方を買ってもらう。

例えば、日本酒なら純米より吟醸を、吟醸より大吟醸を勧める。ディーラーなら本人が希望した価格よりちょっと上のグレードの車を勧めてみる。本当にちょっとした違いしかなくとも、なぜか値段の高いほうが輝いて見えるものだ。
また、航空券の予約でエコノミークラスが一杯でビジネスクラスに空席があったとき、航空会社は当日エコノミークラスの顧客の一部を追加料金なしでビジネスクラスに移す場合がある。しかし、航空会社は無作為に移動してもらう客を選ぶわけではない。身なりのいい中高年の夫婦をCAが選んでグレードアップをサービスする。1回ビジネスクラスを体験すると次からエコノミークラスに乗るのが予想以上に窮屈になる。男性は我慢できても、奥さんが嫌がるようになる。そうすると次回から奥方におされて2名分のビジネスクラスが埋まるようになる。航空会社からすると空いている席を利用するだけで、損は全く無い。

もう一つの一般的なやり方は、オプションでもう一品つける売り方である。
これをクロスセルという。
ラーメン屋さんの味玉や追加チャーシューみたいなものである。ファーストフードなら、ポテトも一緒に勧める方式である。また、格安航空券も基本料金は安いが、荷物の持ち込みや機内食、ドリンクを有料にして、フルでつけると通常の航空機を利用する場合と変わらない値段になったりする。

この方式の優秀なところは、基本の価格は安く認知されるが、気が付けば高い値段を払っている場合があるというところだ。これも顧客が自分で意思決定しつつも、事業者側にとっては高い利益を生み出す。

商品を絞ると、利益率が上がる

実は、価格を全く変えないまま利益率を上げる方法もある。通常、まずやるべきなのはこの方法である。

どういうことかというと、現在有る商品を利益率(or原価率)の軸と売れ筋(or死に筋)の軸に分けて、なるべく利益率が高く、売れている商品に絞り込みをして、それ以外を排除する。いわゆるABC分析という方法だ。

実は、ほとんどの場合利益の8割は2割の商品から生まれており、理論的には8割の商品を減らしても利益は2割しか減らないことになる。飲食店の支援でABC分析をすると全くその通りで驚くほどだ。

とはいえ、利益率と売上だけで商品構成を選ぶとアンバランスで魅力のないお店になるので、売れなくても用意しなければいけない商品はある。それでも利益率の良い商品に絞りそこに誘導することにより、選択肢が絞られるので多少売上が落ちても利益が上がるし、驚くことに売上も上がる場合も多い。商品の絞り込み方にもよるが、これは顧客からは専門性が高まって見えるのと、複数商品を扱うことによる管理コストが減るなど生産効率があがるなどの効果があるからだ。

ここらへんは、いずれABC分析の方法として別途記事を分けたい。

最後に

「サブスプリクション化」や「せり売り化」など顧客DBなどIT化が進んだことにより、これまでにない利益の上げ方も出てきているが、段々と「商品単価をあげる」タイトルから離れつつあるので今回の記事ではこのへんにしておこう。

価格というのは結構いい加減なものであってないようなものだが、一度相場観がその人の中にイカリを降ろすとなかなか変えられない部分もある。また、前述の通り価格は顧客との関係性を含んでいるのでやはりデリケートに扱う必要がある。ボッタクリは一時的なゲームの勝ち方でしかなく、長期的にはたいてい損になるものである。

いずれにせよ、顧客にどんな価値を提供するかが重要である。利益は提供した価値に対する対価であるという点は事業をやるものとして認識し、誠実に向き合って行きたい。