世界一やさしい損益分岐点分析の授業②:利益の増やし方

今回は、前回のラーメン屋の例を参考にしながら、グラフを使ってどうやったら利益が増えるかを考察していこう。
軽く復習すると前回の事例は、商品単価1,000円/杯、原材料費500円/杯、人件費・家賃など固定費が10万円のラーメン屋さんだった。そして、このラーメン屋さんは400杯を売ると損益がとんとんとなる。この条件で利益を増やすためにはどのような方法があるだろうか?

利益  =  売上 − 費用

である。
別に式にしなくてもいいが、感覚的にも売上を増やすか、費用を減らすかすれば利益が増えるというのがわかる。損益分岐点計算ではもう少し式を細かく分解する。

売上 = 販売数量 × 商品単価
費用 = 固定費  + 変動費

となる。
よって、利益を増やすためには以下の4パターンが存在することがわかる。

  1. 販売数量を増やす
  2. 商品単価を上げる
  3. 固定費を減らす
  4. 変動費を減らす

業種業態によって売上や費用を更に分解するものもあるが、基本的には利益を増やすには上記の4つのパターンしかない。

①販売数量を増やす

販売数量を増やす事により利益を増やす方法は最もオーソドックスな方法である。
グラフを見ても分かる通り、ラーメン500杯売ったときの利益Aより、600杯売ったときの利益Bの方が大きくなる。

では販売数量を増やすためにはどうすれば良いか?
顧客を増やす、来店頻度を増やす(受注を増やす)、一回あたりの購入数量を増やす、営業時間を伸ばす、などの方策が考えられることになる。ここも業種業態によって異なるが、目指すべき方向性として「数・量」を増やすための施策を検討することがまずポイントになる。

②商品単価を上げる

次に検討するべきは、商品単価を上げられないかである。

ラーメン500杯を売った時の利益は、50,000円である。

(商品単価1,000円―原材料費500円)×500杯 ― 固定費200,000 = 利益50,000円

さて、このラーメンの値段を1200円に値上げするとどうなるかというと

(商品単価1,200円―原材料費500円)×500杯 ― 固定費200,000 = 利益150,000円

となる。

図表でいうと、同じ販売数量でも売上高線AからBへ移動し、利益Aが利益Bに増加するということだ。
また、損益分岐点も低くなり利益が出やすい売上構造にシフトしていく。

ただ、値段を上げると客離れが発生する可能性もあるため、消費税増税、インフレが著しい場合など値上げのタイミングは難しい。なので、ラーメン屋ならトッピング、それ以外ならオプションなどを導入してなるべく一回あたりの購入金額を高める。あるいは、新メニュー導入時など、単価の高い製品に徐々に入れ替えるなどの施策が考えられることになる。また、ブランド力を高め、高くても購入してくれる客層を作るなども一つの手である。

値段は一度決めると値上げしにくいものだが、目指すべき方向性の一つとして「金額」を増やすにはどうすれば良いかを検討する。

③ 固定費を減らす

固定費も重要な削減項目だ。

固定費削減は、総費用線全体を押し下げ、下がった分だけがそのまま利益に転嫁される。さらに損益分岐点も低くなり、こちらも利益が出やすい構造となる。(総費用線AがBへ下に移動)

今回の例では、家賃と人件費しかないので削減は一見難しく見えるが、会社の経費を見直すとほとんど使っていない駐車場や借りっぱなしの倉庫、新聞広告欄の出稿とか定期契約になって効果は低いのに放置されている・・・などが案外あったりするので、預金通帳を確認して定期的に引き落とされているもののを再度にらめっこしてみるのも良いだろう。

余談になるが、労働集約型産業がどんどんと先進国から発展途上国へシフト行く理由の一つに固定費がある。労働集約型産業はどうしても人件費をかけざるを得ないため、労働力が安価に手に入る地域を探してどんどんと工場を移転していかないと市場のグローバル化に対応できないのである。しかし、最近の技術発展により、以前は人を集めてしかできなかった作業が機械に置き換わる部分も増えており、こうした構造がかわりはじめている。

④ 変動費を減らす

変動費を減らす事も検討する。

変動費削減は、ラーメン屋の例で言えば原材料費の削減を意味する。
材料費削減は品質を維持できる範囲においては積極的に実施すべきだが、失敗すると致命的な客離れを起こすリスクも有り、簡単に実施できない場合も多い。

また、変動費に限らず「費用」にはできれば抑制したいものという消極的なイメージが付きまとうが、商品の品質や自社のブランドを高めるための「投資」という側面もある。単に減らせば良いという発想はするべきではない。

そういう意味で如何に効率的に原材料を使用するかが変動費を削減する上で重要になり、廃棄ロスを削減し、歩留まりを上げていくのが主な改善の方向性となる。また、損益計算には現れないものの、無駄な在庫を削減する事も同じように意識しておく必要がある。

まとめ

利益を多く出すという方法は、会社の業種業態、会社の文化、経営者の特質によって得意・不得意が分かれる。また、どの方法が正解という訳でもない。ただ、場合によって習慣や視野の狭さによってそもそもそれ以外取れる手段がないと思い込む場合も多い。

損益計算上、利益を増やすための手段は以下の4つである。

  1. 販売数量を増やす
  2. 商品単価を上げる
  3. 固定費を減らす
  4. 変動費を減らす

利益を増やすために自分がやろうとしていることはこの内どれなのか?そして何故そこを改善しようとしているのか?を見直してみる。

経営は有機的な仕組みと反応の塊である。
単純に値段を上げればいいとか費用を減らせば良いというものではないが、儲けの仕組みを要素に分解し、まだ試していない手段はないのか?簡単に諦めてしまっているものはないか?更に良い方法はないのか?を注意深く検討していこう。