軽減税率対策⑤〜消費税はやがて15%の時代へ(最終回)

最後にまとめと、今後の流れについて触れておきたい。

まとめ

消費増税・軽減税率導入をする上で押さえておくべきポイントは以下の4点である。

1. 軽減税率対象商品の区別をつける

消費税は、売上で預かった消費税から購入時に支払った消費税を控除した(=差し引きした)金額を税務署に収める制度である。食料品を販売しないでも購入する機会はあるため、何が軽減税率の対象になって、何が対象にならないかは区別できるようにしておこう。

2. 価格の設定の仕方に注意する。

価格をどのように設定するかを決めるのも経営者の仕事だが、今回の消費増税に合わせて税込の販売価格を据え置く場合は、気づかないうちに利益が大幅に減る場合もあるため注意する。また、価格とは顧客との関係を決定する大きな要素であるから、今回の増税をマーケティング戦略見直しのチャンスとする。
価格の表示の仕方も工夫する。
どんな理屈で価格を決定しても自由だが、結局はお客さんにとって納得感があるかが重要である。どんな形であれ、顧客にはより丁寧に説明する姿勢が求められる。

3. 資金繰りに注意する

消費税増税により、預かる消費税金額も増える。特に飲食店は8%で仕入れて10%で販売するため、一時的に手元に残る金額は大きくなる。消費税は赤字企業も支払わないといけない税金であり、年1~2回の納税に備えて支払いの原資を準備しておこう。特に消費税の支払いに銀行はお金を貸してはくれない。

4. 請求書やレシートの書き方が変わる。

軽減税率対象商品を扱わない事業者は8%が10%に変わるだけだが、軽減税率対象商品が混在する事業者は区別して請求書やレシートを作らなければならない。品目数にもよるが、基本的に人の目で区別するのは現実的には難しいので、軽減税率対応レジなどの導入も検討する。(補助金を使う場合は、9月末までに契約まで済んでいないといけない。)

消費税はやがて15%の時代へ

ここからは筆者の予測が入ることをお断りする。

最近、某商工団体の支援で、会員企業回りをして軽減税率の説明などをしている。軽減税率の説明をすると、こんな複雑な制度が本当に運用できるのか?こんな面倒なことをやっているのは日本だけではないのか?運用できないからすぐ終わるのではないか?など様々な声が聞こえてくる。また、弱者救済を掲げる政党の、ある種の政治的な取引のせいだ、恨み言を言う人もいる。

ただ、ここは誤解も多い。

軽減税率による二重価格を採用しているのは、消費税を導入している国では割と一般的なことである。イギリスは非課税も含めて4パターンで税率が設定され、フランスなどさらに複雑で品目により適用される税率が5パターンある。カナダに至っては、ドーナツ5個以内なら標準税率で6個以上は軽減税率になるなど、日本人から見ると理解できない区分けがされていたりするため、日本の軽減税率制度はまだわかり易いと言える。

そして、他の国で運用できている以上、複雑だと言う理由で終わることはない。

また、軽減税率が導入されたきっかけとしてはある種の政治的な取引があったのかもしれないが、それを受け入れた側にも、今後さらに消費税を上げ易くするための制度作りをするという算段があったのではないかと推察される。消費税増税を進める上での一番の障害は、貧困層の負担増に対する反対だが、軽減税率の導入によりその批判を切り離して増税を進めることができる利点が大きいのである。

税金のかけ方には大きく2種類ある。
一つは供給側(=生産者側)に税金をかける場合。代表的なのが法人税だ。
もう一つは需要側(=消費者)に税金をかける場合。これが消費税である。

一般的には、誤魔化しが効く法人税より、脱税しにくい消費税の方が税の公平性の面では平等だと言われている。また、企業間競争がグローバルに展開される中で、法人税が高いと企業が海外に移転し易い状況があり、法人税率の引き下げ競争が世界的なトレンドだったりもする。そんな中で税収を確保するためには、消費税がもっとも有効な手立てとなっている。

消費税は、1989年3%→1997年5%→2014年8%→2019年10%と一度に2~3%ずつ上がってきた。定期的に上がっているわけではないが、およそ30年で4回とすると7年に1回は上がっている計算となる。
EU加盟国の標準税率は15%以上と定められており、大体ここら辺を着地点とすると、2030年を超えたあたりで、15%くらいになるのではないだろうか?

今後の方向性

消費税が上がっただけでは当然消費が冷え込むほかはない。

それを回避するためには、消費者の給与を上げ、購買力を向上させなければならない。韓国ほど極端ではなくても、政策的に最低賃金も今後引き上げられていく。少子化による労働人口の減少も合わさり、やがて今よりさらに人件費が高騰していくだろう。

そんな中、事業者はどのように生き残っていくべきだろうか?
人がやらなくていい仕事の範囲を増やし、機械やシステムに置き換えていく必要がある。
今後、より一層ITC技術が経営に組み込まれていく時代が来るだろう。