「中小企業白書」(その2)

 

今回は、中小企業白書でここ5年どんなことが課題として取り上げられたかをみていこう。
ブログの最後に、過去5年の中小企業白書の各部のタイトルと概要文を表にまとめてみた。

過去5年を俯瞰してみる

2014年版(H26)をみてみよう。
経済・社会構造の変化(人口減少、地域の抱える課題等)について分析を行い、五つの柱にしたがって、政策提言を行ない、中小企業に対する支援のあり方を分析している。2014年はスターバックスやユニクロの正規雇用化が話題になっていたが、2008年に人口のピークを迎え、いよいよその影響が本格化するにあたって、対応策を意識しだしたと言えるだろう。

2015年版(H27)は「小規模事業」「地域活性化」、2016年版(H28)では生産性に軽く触れた上で「稼ぐ力の強化」「経営力向上」を取り上げ、2017年版(H29)からは「ライフサイクルと生産性」「人材確保」がテーマとなっている。ここら辺はアベノミクスを起因とする好況期とも重なり、どう人を確保するかということと企業の各ライフサイクルに合わせた支援がフォーカスされている。特に、経営者が高齢化するにあたっての事業承継なども話題になっている。

現時点の最新版である2018年版(H30)では、「生産性向上に向けた取り組み」として、「業務プロセスの見直し」、「人材活用面の工夫」、「IT利活用」、「設備投資」、「M&A」が取り上げられた。ここ5年は、一貫して生産性向上が取り挙げられているが、さらにその内容を細分化しているのが、2018年版(H30)と言えるだろう。あと2ヶ月くらいで2019年版(H31)が公開されるが、「生産性向上」をテーマにする傾向は今後も変わらないだろう。

超高齢化社会にあたって

中小企業政策に限らず、今の日本が抱える最大のテーマは「少子高齢化と人口減少」である。要は、人の数の減少に伴って需要も供給もシュリンク(縮小)していく中で、どう社会としての活力を維持していくかということである。需要も供給も同時に縮小するならまだ良いが、生産年齢人口が減り高齢層が増えるということは、少数の若者が(大)多数の老人を支える社会へ移行するということなので、人一人あたりの生産力を向上させないと社会が維持できないということになる。

女性の社会進出や高齢者の雇用促進、副業の推奨などまずは労働力自体を増やすことを目指しているほか、「業務プロセスの見直し」や「人材活用面の工夫」では無駄な仕事を減らし、「IT利活用」「設備投資」では人そのものの仕事を減らすことが目指されている。「M&A」も、一緒になって減らせる仕事があれば減らしなよということであるのだろう。

白書は天気予報図

企業数の99%、人の7割が従事している中小企業の課題はいってみれば生産面における日本社会の課題でもある。

単純に人をどう確保するのかという点をみても、例えば女性の働きやすい職場をどう作るのかとか、海外から来た人の力を活用するのはどうすればいいのかと、割とリアルで切実な企業の課題と直結したりするのである。

マクロの課題はあんまり意識してもしょうがないと思うかもしれないが、中小企業白書はある種、経営者にとっては天気予報図的な役割ももっているのである。

 

(参考資料:中小企業白書2014〜2018年版 抜粋)

年度 分類 概要
2018年版
(H30)
第1部 平成29年度(2017年度)の中小企業の動向 第1部では、最近の中小企業の動向についての分析に加え、中小企業の労働生産性経営の在り方等について分析を行う。
第2部では、第1部の分析結果を踏まえた上で、中小企業の
生産性向上に向けた取組について分析を行う。具体的には、業務プロセスの見直し、人材活用面の工夫、IT利活用、設備投資、M&Aを中心とする事業再編・統合について取り上げる。
第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命
2017年版
(H29)
第1部 平成28年度(2016年度)の中小企業の動向 第1部では、最近の中小企業の動向についての分析に加え、中小企業のライフサイクル生産性及び中小企業の雇用環境と人手不足の現状について分析を行う。
第2部では、第1部の分析結果を踏まえた上で、中小企業のライフサイクルとそれを支える
人材に着目し、起業・創業、事業の承継、新事業展開による成長及び人材確保の取組について分析する。
第2部 中小企業のライフサイクル
2016年版
(H28)
第1部 平成27年度(2015年度)の中小企業の動向 第1部では、最近の中小企業の動向についての分析に加え、中小企業の生産性について分析を行う。
第2部では、第1部の分析結果を踏まえた上で、中小企業の
稼ぐ力の強化に向けた取組について分析を行う。具体的には、IT活用、海外展開、リスクマネジメントについて取り上げる。また、それらの取組を支える金融、及び、稼ぐ力の強化のための取組を適切に実行する経営力について分析を行う。
第2部 中小企業の稼ぐ力
2015年版
(H27)
第1部 平成26年度(2014年度)の中小企業・小規模事業者の動向 第1部では、最近の中小企業・小規模事業者の動向についての分析に加え、より中長期的な観点から、中小企業・小規模事業者の収益力、地域の競争力について分析を行う。
第1部の分析結果を踏まえた上で、第2部で
は「企業」、第3部では「地域」に注目した分析を行う。具体的には、第2部では、企業の収益力向上に関するテーマとして、イノベーション・販路開拓、人材の確保・育成について取り上げる。さらに第3部では、経済・社会構造の変化に直面する中での、地域活性化の取組について取り上げる。その際、地域資源の活用や、地域の課題解決という視点から分析を行い、その結果を豊富な具体的な事例と併せて紹介する。
第2部 中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍
第3部 地域を考える―自らの変化と特性に向き合う―
2014年版
(H26)
第1部 平成25年度(2013年度)の中小企業・小規模事業者の動向 第1部では、最近の中小企業・小規模事業者の動向について分析し、第2部では、より中長期的な観点から、中小企業・小規模事業者が直面する経済・社会構造の変化(人口減少、地域の抱える課題等)について分析を行う。これらを踏まえた上で、第3部で、五つの柱(小規模事業者の構造分析、起業・創業、事業承継・廃業、海外展開、新しい潮流)に従って、現状分析と課題抽出を行うと共に、それぞれについて具体的な政策提言を行う。
さらに、第4部では、中小企業・小規模事業者385万者に施策を届け、効率的かつ効果的に支援していくため、
支援の在り方の分析を行う。
第2部 中小企業・小規模事業者が直面する経済・社会構造の変化
第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来
第4部 中小企業・小規模事業者の支援の在り方